小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

13 くうねるところすむところ 平 安寿子 (2005)

【あらすじ】

 山根梨央、30歳。弱小就職情報誌の編集者。恋にも仕事にも展望は見えない。ある日、酔っぱらった勢いで建設現場の足場によじ上ったが、腰がぬけて下りられなくなって、トビ職でバツイチの田所徹男に助けられる。

 ガテンな徹男に一目惚れした梨央は、勢いで工務店に就職する。だがその職場は、亭主に逃げられ、やむなく社長を引き継いだ創業者の娘、鍵丸郷子がド素人なため、頭がパニックになって、大混乱している最中だった。女ふたりの「勢い」の決断の行く末はどうなるのか。

 

【感想】

 昔は「衣・食・住」にかかわる仕事に食いっぱぐれはないと言われていた。衣服、料理人、そして大工。衣食住に関わる職業はそれだけではないが、みなさん昔から「職人」として世間で認められていた(中国や韓国は、儒教の関係でその限りに非ず)。その後「3K」の言葉が流行り、大企業の「寄らば大樹」の考えかたも浸透して、ホワイトカラーに労働人口は移っていく。ところがホワイトカラーも楽ではないと「身にしみて」理解されるようになり、「ガテン系」もCMなどでのイメージ戦略もあり、復権してきている。

 そうは言っても、主人公の梨央が工務店に就職する理由は短絡的な印象があるが、人生の決断とはこういうものか。何かしらの条件が重なって、それを「運命」と信じる。一歩踏み出せない自分が、何とか足を動かす理由付けにする。

*本作品の前に上梓した、アラフォー女子の生態を赤裸々に描いています。

 

 本作品は連作の短篇集となっている。第1編「見知らぬ風」はあらすじの通り、主人公の梨央が編集者の仕事に行き詰まって、「ひょんなことから」地元の小さな工務店に「えいっ!」と転職するまで。

 第2編「姫、ご乱心」は、夫が浮気して離婚した鍵丸郷子は、パーキンソン病になった父から、突然会社を託される。再就職もままならないので、専業主婦だった郷子は覚悟を決めて社長に就任するも、会社経営なんて全くわからない。問題は次から次へと発生し、周りは子供の頃から「姫」と呼んでいた目障りな「舅」と「姑」ばかり。そんな中で入社したばかり梨央だけは社長に対して敬意を払ってくれる。えーい、とばかり、言うことを効いてくれる梨央を現場監督に抜擢する。

 第3編「リフォーム・ミー」は、現場監督になった梨央の奮闘記。職人さんとの人間関係は何とか保つも、現場が予定通りに進行することは、まずない。元請が作成した見積もりがまず甘い。天候にも左右される。電気工事や内装など、他の業者との連携がうまくいかない。工事自体に問題が発生する。そして施主が途中で口出ししてくる。工事現場は決して新人監督の練習台ではなく、また工費も高額だ。現場監督は例え1年生でも、責任をとらなければならない。

 第4編「マイ・カンパニー」。合併話がやってきて検討する郷子。実態は吸収合併だが、社長という負担から解放されることを夢見て前向きに検討する。一方梨央は、現場監督に限界を感じて、役職の返上を申し出る。行き詰まったオンナ2人で酒を酌み交わして、お互いの考えをぶつけ合うと、現場の楽しさを知った梨央に、この会社で働き続けたい気持ちが芽生える。郷子はようやく重荷を下ろせると思ったら、新たな重荷を背負うことを認識する。

 第5編「愛しきマイホーム」。家を建てるのは人生で一番大きな買い物。そして一生物でもあり、施主には希望も思い入れもある。家を建てること、施主の希望を叶えることに仕事の生きがいを感じる梨央。そして郷子も娘の早智子が工務店に就職を希望しているのを知り、「やる気」を取り戻して合併は断る。早智子は二代目「姫」として、「建設現場に来りゃ、いい男がザックザクいる」と目を輝かせる。そして梨央の恋がまだまだ難関があるが、まだ閉じてはいない。

 「家をつくるオンナ」の物語。「やる気スイッチ」はひょんなところで見つかるもの。

*バブル世代と就職氷河期世代のオンナのバトルを描いた作品です。