小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

14 マグマ 真山 仁 (2006)

【あらすじ】

 外資投資ファンド会社であるゴールドバーグ・キャピタルに勤務する野上妙子が休暇を終えて出社すると、所属部署が消滅して彼女を除くメンバーが解雇されていた。そして妙子は支店長の待田顕一から、湯ノ原町にある地熱発電の会社「日本地熱開発」の再生を命じられた。

 そこで妙子は「高温岩体発電」を知り、企業価値を評価して、会社存続に動くこととなる。地熱発電の研究に命をかける研究者、原発廃止を提唱する政治家。様々な思惑が交錯する中、妙子はこのビジネスに賭ける。

 

【感想】

 「ハゲタカ」で有名になった真山仁が、外資ファンドのフィールド内で、エネルギー部門を描いた。

 第1次オイルショックでは「大変だ」を大騒ぎとなったが、昭和50年代の第2次オイルショックでは、代替エネルギーを探すのに血眼になっていった。その中に「地熱エネルギー」の発想が生まれている。但し地熱エネルギーを現実化する技術が期待ほどは上がらず、地熱エネルギーの研究はだんだんと尻つぼみになっていったようである。

 本作品のプロローグ、出だしの台詞「5年以内を目処に、日本の原子力発電所を閉鎖して欲しい」は刺激的。ちょうど発刊の5年後に起きた「事件」を考えると意味深である。主張してきたのはイギリスやフランスだが、その理由は「成長著しいアジア諸国の暴走を抑制するため」と、現実と比べて全く異なる背景になっている。

 主人公の野上妙子は、これまたハイスペックな設定。東京大学からコロンビア大学でMBAを取得して、ニューヨークでゴールドバーグ・キャピタルに「パイプライン(キャリア組)」として採用される。そして周囲から「目を見張る美貌」と言われている容貌を持つ(ちなみにドラマ化での配役は尾野真千子)。作者の話だと、主人公妙子に対する女性からの人気はすこぶる悪いらしい (^^)/

*全て兼ね備えたハイスペックな女性を、尾野真千子が見事に演じました。

 

 日本地熱開発に赴いて、外資ファンドの目から会社の「バリュー」を検討して、十分採算がとれると踏む。地熱エネルギーの研究では、その道一筋の研究家がいて、実用化までもう一息のところに来ている。地味でそれまで日の目を見ない分野で、地道に研究を重ねていた人たちに、共感も芽生えてくる。

 それに対して、本作品は「原子力村」と呼ばれる政治家と官僚、そして電力会社が反対勢力として登場する。「原子力の鬼」と呼ばれる政治家の孫が日本地熱開発の社長と設定しているのは、一応理由はあるが、ちょっと「できすぎ」の感もある。最終的には、人々の情熱で地熱エネルギーの運転が開始され、日本エネルギー問題研究所の理事長が冒頭で追及された会議で、「日本の原子力安全宣言」を提示して各国から称賛されて幕を閉じている(なんて皮肉な・・・・)。

 地熱エネルギーが、特に日本は地熱が日本のいたるところにあり、野上妙子が考えるように将来有望と思われる。しかし地熱エネルギーを実用化するには、様々な困難があって、原子力発電が「このような事態」になっても、まだ問題山積の状態である。

 第1に地熱を取り出すために掘削が、1000~3000メートル位の深さが必要で、導入コストがとてつもなく高いこと。第2は適した場所の80%以上が国立公園内にあって、自然保護の観点から開発が認められないこと。第3に、蒸気を利用するため大量で安定した電気の供給は現在の技術では限界があること。最後に温泉業者の反対。開発により観光資源が損なわれること。

 それでも絶対に乗り越えられないものではないように思える。将来のためにも進めていくべきと思うのだが。

*作者真山仁出世作。その後シリーズ化しました。