小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

13 警察庁から来た男(道警シリーズ) 佐々木 譲 (2004~)

【あらすじ】

 拳銃摘発の「ヤラセ」が発覚した事件と、それがきっかけで判明した北海道警察(道警)の裏金問題。監察のため警察庁からキャリアの藤川警視正が道警本部に乗り込んで来た。秘密を知る男として道警全体を敵に回す形となり、かつての相棒だった佐伯警部に助けられた津久井巡査部長は、裏金について「うたった」(証言した)あと、警察学校の事務をしていたが、藤崎の直々をお声かかりで運転手となり監察に協力することになった。。

 一方津久井を助けた佐伯は風俗店が立ち並ぶ薄野地区で起こった、一旦事故として処理された転落死事件について、被害者の父親からの訴えにより再捜査を始める。そしてその店を捜査する中、1つの疑惑が浮き上がって来る。

 

【感想】

 佐々木譲ならば名作「警官の血」を取り上げようか迷ったが、地方警察の姿を描く本シリーズも捨てがたく、こちらを選んだ。

 シリーズ第1作である前作の「笑う警官(「うたう警官」から改題)」は、道警で現実に起こった拳銃摘発のヤラセ事件(稲葉事件)と、そこから飛び火した裏金作りを題材としている。「ヤラセ捜査」をした警官と同じ職場にいたため、真実を知る設定の津久井巡査部長に対し、それを隠蔽したい道警本部の「常軌を逸した」対応。そして濡れ衣を着せられた津久井を助けようとする仲間たちの活躍を描いている。北海道議会で行われる予定の証言をタイムリミットとした、真犯人を探し出す捜査は見どころ満載。

*シリーズ第1作。当時は警察の不祥事が全国で報じられました。

 

 本作品はその続編で、主要登場人物も事件の背景もそのまま継続している。そして新たに題名通り警察庁から監察官が来て、裏金だけではない様々な問題を炙り出すことになる。

 そのためか、前作よりも根が深い問題を取り上げている。冒頭に買収されそうになったタイ人少女を保護した女性が、追手を振り切り何とか交番に駆け込む場面が描かれる。これで警官が少女をタイ大使館に引き渡して解決と思ったら、何と警官が暴力団に少女を引き渡してしまう。

 もう1つ、薄野では様々な風俗店が軒を連ねていたが、取り締まりと同時に一掃されたが、その一軒の暴利バーで起こった墜落事故。捜査の過程で、特定の店は捜査の手が緩い、という疑惑が生じる。ある店では取り締まりによって廃業に追い込まれているが、一方で同じ事をしている店がそのまま営業して、警察の暴力団の「癒着」を、見事に表現している。

 そして警察庁から来た藤川警視正謎めいた、現場の刑事とは明らかに違う雰囲気を持つこの男は果たして敵か味方か。キャリア官僚でもあり、場合によっては事なかれ主義で済ませようとするのか、周囲は疑心暗鬼がつのる。但し藤川から見れば、監察の役割に敵も味方もない。組織がかりの「癒着」を暴くためには周囲も信用できないため、誘いや罠を潜り抜け、孤独に冷静に真実を暴いていく。

 対して佐伯は、1つの事件の捜査から道警の「癒着」に近づき、組織から探っていった藤川の流れと交錯する。そしてその交錯することが「敵」にとって一番危険な状況であり、その危険を「排除」する。その時の藤川警視正の覚悟は警察官としての矜持。それまでの扱いが謎めいていたので、「覚悟」は鮮やかさが際立つ

 道警の事件から始まり、全国の警察で裏金の存在が明らかになった時代。暗い話題が続く中、敢えて佐伯のチームと警察庁の藤川の活躍を描くことで、「警官の血」の作者は、警察に対して希望と信頼を託しているように感じる。

*「警察サーガ」とも言うべき傑作です。