小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

4-2 隠し剣秋風抄【士道物】(1981)

 

 

1 酒乱剣石割り

 家老は、商人と癒着して藩政を壟断した松宮久内の粛正を行うため、まず松宮の息子で剣豪の佐十郎を倒すことを決意する。相手に推薦された弓削甚六は、秘剣石割りを習得する天才剣士だが、無類の酒好き。

 家老は事が済むまでの禁酒を命じた。ところが左十郎を成敗するために城中に身を潜めている中、心の乱れを感じ、酒を求めて台所に飛び込んでいった。

 *まさしく「酔剣(拳)」。何かに秀でている人は、「普通の人」とはちょっと違うと思わせます。

 

2 汚名剣双燕

 河西伝八郎が同僚を斬った時、道場で三羽烏の1人と呼ばれた八田康之助が立ちふさがった。しかし伝八郎の妻由利に思いを寄せる康之助は、伝八郎の逃走を許してしまい、以来康之助は臆病者という汚名を着せられてしまう。

 ところが、伝八郎が討手に斬られてから由利は男遊びを繰り返し、三羽烏のもう1人、関光弥と付き合っているという噂が康之助の耳に入る。そして康之助は関光弥と対決する機会が訪れる。

 *1人の女性を巡る3人の剣士たちと、男たちを翻弄する女性の物語。不器用な男はやはり剣の道を歩むしかないのか。

 

3 女難剣雷切

 佐治惣六は女房運に恵まれない。最初の妻とは死別し、その後2人の妻に逃げられている。惣六は剣豪で、10年前に盗賊たちを1人で切り伏せたが、今は誰も覚えていない。しかも惣六は女中に手を出すという噂が流れていた。

 そんなある日、惣六は物頭の紹介で4人目の妻を迎える。妻の嘉乃は従順だったが、惣六は嘉乃の態度に不審を抱き始めた。

 *じじむさい風貌で女性に恵まれない男。周囲からも軽んじられるが、一寸の虫にも五分の魂。見ている人はきっといます。

 

4 陽狂剣かげろう

 佐橋半之丞は剣の師の次女、乙江祝言を控えていた。ところが乙江を若殿の側室に差し出すようにとの命が下る。乙江が命を拒否しても、若殿を袖にした女を妻に迎えるわけにはいかない。

 半之丞は、乙江が側室になる決断ができるよう、気が触れたと偽ることにした。初めは単なる演技のはずであったが、次第に演技と真の狂気の境界が曖昧になる。

 *こちらも運命に切り離された男女の話。但しその運命を操った人間がいると知って・・・・

 

5 盲目剣谺返し

 毒味役の三村新之丞が、毒に当たって失明してから1年半、妻の加世が近習組頭島村藤弥と密通していた。その理由が、三村家の家名存続を島村に尽力してもらうため、と知ったとき、新之丞は加世を離縁するのみに留めた。

 しかし家名が存続したのは、藩主の思し召しと判明する。そして新之丞は武士の一分を立てるため、島村に果たし合いを申し込んだ。

 *木村拓哉主演の映画で、こちらも原作に忠実。これでキムタクも演技の役柄が広がると期待しましたが、以降もキムタクを演じ続けていますね (^^)

 

 

 *映画「武士の一分」。意外と(?)ちょんまげ姿も似合って、時代劇の活躍も期待したのですが・・・・

 

6 偏屈剣蟇ノ舌

 首席家老の間崎新左ェ門との政権争いに破れて失脚した、先の家老の息子山内糺は、その後急速に力をつけ、中老の座に座るまで出世した。そして大目付に、剣豪で名高い山内派の植村弥吉郎を起用する。

 過去の不正を暴かれて失脚することを恐れた間崎は、剣の達人である植村を暗殺しようと考える。白羽の矢が立ったのは、偏屈で有名な馬飼庄蔵であった。

 *全ての行動が偏屈で周囲も呆れる主人公。但し剣の道と妻への思いは真っ直ぐ。妻の名が「素世」というのも深い。

 

7 好色剣流水

 三谷助十郎は、井哇流の遣い手としての名声の一方、家中きっての好色な人物として知られている。結婚に2度失敗し、後家との浮き名も流したことがある。

 現在の助十郎は、近習頭取服部弥惣右ェ門の妻、に心を奪われ、迪が外出するたびに後をつけ回していた。そんなある日、迪は助十郎を誘うように、人気の無い場所に向かって歩んでいく。

 *誘われる男心と誘う女心。そしてその代償はいつか払わされる。「流れる水」のようには、なかなかいかない。

 

8 暗黒剣千鳥

 三崎修助は家老牧治部左ェ門の密命を受け、奸臣とされる明石嘉門を闇討ちにしたが、その後修助の仲間たちが、次々と一太刀のもとに斬られていた。修助も襲われかけるが、修助の師である曾我平太夫は、刺客の剣癖が曾我道場に伝わる暗殺剣千鳥に似ていると語った。

 縁組み話を延期させて、修助は「千鳥」に対抗すべく修行を重ね、対決の時を待つ。

 *またしても藩の政争に巻込まれる主人公。そして待つ女性がいると男は強い。今回は主人公が秘剣に立ち向かう話。

 

9 孤立剣残月

 15年前、小鹿七兵衛鵜飼佐平太を上意討ちにした。佐平太の弟半十郎が、今般鵜飼家を再興することになったが、藩主と共に帰国した際、七兵衛に果たし合いを申し込むつもりだという。

 その背後には藩内の権力争いがあって、果たし合いは避けられそうにない。体がなまってしまった七兵衛は、師匠に伝授された秘剣残月を思い出そうとしていた。

 *上意討ちへの恨みは筋違いだが、相手は恨みを晴らそうと向かってくる。年老いた剣士も一撃を込めて立ち向かう。

 

 隠し剣シリーズ2冊。作品の一部省略して、2冊まとめて紹介しようと思いましたが、切り捨てる選択ができず、結局2冊別々に取り上げてしまいました。「隠し剣」を有した登場人物が、どのような過程で秘剣を披露するのか。この1点だけでも藤沢周平は手を変え品を変え、17作を見事に描き分けました。

 

 またタイトルも秀逸。漢字の1文字1文字が巧みに選ばれて使われています。そしてそのタイトルから物語がイメージされたのかと想像してしまうほど、タイトルとストーリーが一体になっています。

 

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