小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

1-2 日御子 ② 帚木 蓬生 (2012)

【あらすじ 第2部「日御子」 江女炎女の物語】

 

 倭国大乱の時代。弥摩大国の使譚安潜家に嫁いだ江女は3人子供を産んだが、舅の、夫の、そして2人の子供は戦いで死に、もう1人の子朱(木)は戦場にいる。江女は残されたの娘炎女(火)に使譚の3つの掟と、4つめの掟として、「一生懸命働いたあと仕事の中味を変えれば骨休みになる」と伝え、炎女が10歳のときに息を引き取る。

 

 炎女は使譚の能力に恵まれた。13歳になると巫女に選ばれ、16歳で国王の側に仕える。国王に女児が誕生し、名を日御子と名付け、間もなく国王の座を譲られる。炎女が韓の辰韓国に使者を出す時に、見事な書簡を書き上げたことで、日御子は炎女に興味を持ち、読み書きを教わるようになる。弥摩大国の外交は成功し、炎女が書いた書簡は絶賛される。日御子と信頼関係が結ばれた炎女は、ある日展望台で日御子に戦いの空しさを語るのを聞いて、使譚に伝わる3つの掟を話す。

 

 日御子はそんな炎女の教えに影響を受けて平和を望み、炎女が起草した親書を30にも及ぶ倭国の国々に送り、和親を願う返書も多く受け取る。ところが長年対立している、南に接する求奈国の使者は帰ってこない。展望台で祈りを続ける日御子だが、ある日使者2人は骸になったと言い出す。ほどなく首をはねられた使者が運ばれる。使者は展望台の下に埋葬され、日御子の祈りはだんだんと長くなり、やがて天の声を聞くようになる。

 

 対立する求奈国王が死去する。日御子は反対を押し切って弟を弔問に向かわせるが、戻ってこない。日御子が祈りを捧げると、父王の声で「私のいのちと引き換えに戻ってくる。あと2日待て」との神託を告げる。予言通り父王は死に、2日後照日子は無事戻ってくる。日御子の神懸かりと、平和を願う行動は次第に倭国の国々に広がり、倭国大乱は収まっていく。

 

 年が経て炎女も年老いた。日御子に仕える炎女は子がなく、甥の在(土)に使譚の3つの掟と4つ目の教えを伝える。死の床で炎女は日御子から、幼い時に炎女から教えられた3つの掟を守り、「自分は天と人をつなぐ使譚」として国王として務めてきたと告げる。炎女はその言葉から、感動と満足に満たされて息を引き取る。

 *魏志倭人伝卑弥呼の断の和訳(家庭教師のトライHPより)

 

【あらすじ 第3部「魏使」 から鋏女、そして孫たちへ】

 

 中国では漢は滅び、魏・呉・蜀の三国に分立した。炎女の甥の在(土)は日御子の命令で、魏に朝貢をするよう命じられる。楽浪郡の南に設置された帯方郡に上陸し、そこから魏の首都洛陽に赴く。そこで日御子あてに親魏倭王印綬を授かり、魏の使者と共に帰路についた。魏の使者たちは途中、倭の国々や島々を調べ、記録した。その中でも弥摩大国については特筆した。

 

 70歳を越えた日御子は3年後、の息子銘(金)を使譚として朝貢を命じる。の双子の妹で、弥摩大国に侵攻する敵国の求奈国に仕える、阿住に嫁いだ鋏女に会いに行く。日御子は在を帯方郡に送り仲裁を依頼し、威嚇のために送られた軍船で倭国に戻ったとき、は日御子の崩御と、の娘で巫女頭を務めていた鋭女の殉死を知る。

 

 日御子の跡継ぎで争乱が起きるが、日御子の弟照日子の孫で13歳の壱与が後を継ぎ、銘の娘沙女(水)が巫女に選ばれる。壱与はに、内戦が収まらない魏への遣使を命じ、高官の配慮でそれまでに贈られた生口との再会が果たされる。生口たちは、に教わった3つの掟と4つ目の教えを支えに生きていた。

 

 中国では魏が終焉して晋が建国される。改めて朝貢に赴くとその子。そこへ求奈国の使譚、阿住が、求奈国が弥摩大国の急襲を計画している知らせを伝える。は晋に赴き仲裁を頼み、息子のは、顔が良く似た従兄弟のと共に、弥摩大国に向かい女王壱与の親書を持って求奈国に向かい、命を賭して和平を進言するように計画する。

 

 

【第2部、第3部の感想】

 史実を散りばめながらも、作者が想像した世界観が広がる物語は、長い時間をかけて世代を超えた人物が登場する。そのためかあらすじがほとんど要約になってしまっているが、敢えてつけ足すと、第2部での炎女と日御子との交流が美しい。この2人の関係は、家庭教師が住み込みで娘を大学進学まで母親代わりになって育て、そしてその娘がアメリカ大統領になっていくジェフリー・アーチャーの傑作「ロスノフスキ家の娘」を思い出した。

 

nmukkun.hatenablog.com

*こちらで「ロスノフスキ家の娘」について言及しています。

 

 また本作品で登場する女性たちは、他国に嫁いで、そこで「あずみの掟」を広げていく役割を与えている。伊都国から弥摩大国に、そして求奈国へと広がり、最後は敵対する弥摩大国と求奈国の戦乱を避ける役割を担っていく。また女王日御子は、炎女から教えられた「あずみの掟」を守ることで、倭国大乱を収めている

 外交という手段で戦乱を避ける、これは現代にも通じること。そして本作品を通じるもう1つのテーマ。「伝える」ことの難しさと共に、長い時を超えて「伝わった」ことに対する感動を、使譚という職業を通して表現し、それが本作品の処々に溢れている。炎女は一代でそれを感じ、また祖父や父の教えが思わぬ所で子や孫が知ることになる。

 この後、弥摩大国は東遷してヤマト王朝になったのか、求奈国は熊襲となってヤマトと対立したのかわからないが、この平和を愛した使譚の一族は、武力によるヤマト統一の過程で、倭国の中から消えてしまった。そんな想像をうける位、倭国の「まほろば」の時代を(多少のアクを取って)、美しく描ききった傑作。

 紀元後の57年からスタートする、9世代にわたる壮大で麗しい物語。最後に、私が整理した本作品の系図と関係図を載せるので、物語の理解に役立ててください(間違いがあったらごめんなさい)。