小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

20 ミレニアム1 ドラゴンタトゥーの女 スティーグ・ラーソン(2005)

【あらすじ】

 実業家ヴェンネルストレムの不正を報道した雑誌「ミレニアム」の発行責任者ミカエル・ブルムクヴィストは名誉毀損の有罪判決を下される。それでもミカエルは、違法行為ではないことを確信していた。

 時を同じくして、大企業グループの前会長ヘンリック・ヴァンゲルは、ミカエルにある仕事を依頼する。それは、36年前に一族が住む島から忽然と姿を消した少女ハリエット・ヴァンゲルの失踪事件の調査だった。法外な報酬と、事件の謎を解決すれば、ヴェンネルストレムを破滅させることもできる証拠を与えるという条件から、ミカエルはこの難解そうな依頼を引き受ける。

 調査は予想通り混迷を深める。助手が必要となったミカエルにヴァンケル家の弁護士フルーデが紹介したのは、ミカエルの信用調査を担当した小柄な女性。ドラゴンのタトゥーを入れたリスベット・サランデル。リスベットの協力を得てミカエルは真相に近づき、そして自身のジャーナリストの復権を賭ける。

 

【感想】

 原題の日本語訳は「女たちを憎む男たち」。男性優越社会において虐げられる女性を描く。これは著者が15歳のころ女性が輪姦されているところを目撃しながら、何もせずその場を逃げ去ったことに由来する。その時以降、自らの臆病さに対する罪悪感と女性暴力に対する怒りが著者をつきまとうようになった。その被害者の女性の名前は「リスベット」。そして各章題の扉には、スウェーデンにおける女性が被害を受ける犯罪の現状が、冷酷なデータで示される。

 そして本作品の第2の、そして強烈な主人公であるリスベット・サランデル。やや冗漫な序盤の展開が、ミカエルとサランデルが絡んでから勢いよく動き出す。その人物設定は今までのミステリー史上の「ヒロイン」からはかなり逸脱する。

 幼少期に父親から受けた暴力とそれに対するあまりにも激しい対抗策を取った過去。そして精神障碍と診断され、後見人の弁護士からも性的虐待を受けたために、それに対する復讐をする強烈な性格。アスペルガー症候群サバン症候群のため、コミュニケーション能力に問題があるものの、パターン認識能力は抜群で、またハッキングにかけては一流の技能を備える。敵に対しては激しく攻撃し、孤独な調査もそしてセックスも全く抵抗なく、ただ心のどこかで信頼できる男性の支えを求めている。21世紀になって新たなヒロイン像を作り上げた。

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   *映画「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」より

 

 そしてサランデル以外の女性も、男性に虐げられている。失踪した少女ハリエット・ヴァンゲルも身近な男性から虐待を受けて、そこから逃げ出したのが失踪事件の真相。但し事件はそれだけでなく、ひと昔前に発生した女性の連続猟奇殺人につながっていく。そしてサランデルはハリエットの、そして被害者の女性たちの代わりに虐待をした男に「容赦のない」復讐をする。

 話はそれだけで終わらない。パートナーとして信頼したミカエルのために、サランデルは実業家ヴェンネルストレムに罠をしかけ追い詰める。そこでミカエルは救われるがサランデルの思いが伝わることはない。残念ながらサランデルには幸福や満たされた暮らしは似合わない。何しろヒロインの「最終形態」なのだから。

 そしてこのヒロイン像は、ルパン三世PART5のヒロイン「アミ」に引き継がれている。

 作者のラーソンは全10部の構想を持っていたが、本作品の出版前に心筋梗塞で急死。死後に「ミレニアム2 火と戯れる女」、「ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士」と本作品に続いて出版された。その後別人が続編として「ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女」、「ミレニアム5 復讐の炎を吐く女」、「ミレニアム6 死すべき女」と続いている

 

*本作品の底流をなす、スウェーデンの犯罪事情。読者のブロガーさん(というよりプロの作家)のkon-51さんが、スウェーデン 福祉大国の深層 続報!」でデータを紹介していますので、リンクさせて頂きます。(「ミレニアム1」についても投稿がありますが、今回はこちらをリンクさせて頂きました。「ミレニアム1」はブログ内の検索ですぐに見つけられます。)

 

kon-51.hatenablog.com