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【あらすじ】
キャリア組で事務方を務めるはずの遠野麻衣子は、男女雇用機会均等法の風潮で警備部警備課に「建前で」所属させるも、研修では最も優秀な成績を収めてしまう。その適正からネゴシエーターとして育成されていたが、研修担当で妻子のある上司、交渉のエキスパートである石田修平に次第に思いは募っていった。
それは秘めた思いだったはずだが、周囲には感じてしまうのか、妻子ある相手に不倫との噂が流れてしまう。結果麻衣子は高輪署に出されて、計理課で精算伝票の処理に追われる毎日を過ごしているうちに、29歳となる。
そんな折、麻衣子が配属されている所轄の近くでコンビニ強盗が現れ、追い込まれた犯人グループは近くの病院で人質をとって立て籠もった。要請を受けた特殊捜査班は、緊急措置として石田が現場に到着するまでの間、交渉の窓口として麻衣子を捜査に加える。交渉に入った麻衣子だったが、女性蔑視がはびこる現場の中で、麻衣子は苦戦を強いられる。
【感想】
「経理課の」遠野麻衣子が、エキスパート石田が来るまで管轄で起きた事件で犯人に対して交渉の窓口を担当する。ネゴシエーターがまだ注目される初期の段階であり、麻衣子を通じてネゴシエーターの基本を学び、その後遅れてきたエキスパートの石田が実践面を読み手に教えてくれる。
フレデリック・フォーサイスの名作「ネゴシエーター」が刊行されたのが1989年。その時は海外の頻発する誘拐事件などに対応するため、保険会社が雇用する民間の職業として扱われた。そのためか、民間会社が犯罪に介入しない日本を舞台としては、余りイメージが湧かなかった。しかし本作品と同じ年に上映された「踊る大走査線THE MOVIEⅡ レインボーブリッジを封鎖せよ!」で真下正義(ユーズケ・サンタマリア)がネゴシエーターの教育を受けて登場したのを機に一般的に浸透してきた記憶がある。そして2005年「交渉人・真下正義」でスピンオフ作品として上映される。
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本作品に戻ると、石田の交渉は流れるように流暢だが、少しずつ違和感が生じてくる。そして事件の「真の意味」が浮かび上がり、今まで当たり前のように見てきた犯罪現場の風景は一変する。対して麻衣子は「ネゴシエーター」の才能が引き出され、周囲が見落とした「違和感」を感じ取り、そこから推理して事件の裏に潜む真相を暴き出す。
第2作「交渉人遠野麻衣子・最後の事件(改題:交渉人・爆弾魔)」は、前作でヒロイン扱いとしてセンセーショナルな報道をされた麻衣子は管轄にも居場所がなくなり、本庁の広報課に「隔離」される。そこへ大量殺人事件を起こしたカルト宗教の教祖を救うための脅迫が警察に行われ、麻衣子が交渉の窓口に指名される。やはり現場の捜査員は「広報課の」麻衣子に信を置いていないが、麻衣子は自身の能力を発揮して、周囲の疑念を「ねじ伏せて」事件の解決に迫る。
第3作「籠城」は、少年犯罪の被害者遺族が起こした、自身の喫茶店の客を人質に取った籠城事件で、少年法の矛盾を突く前代未聞の要求と、やはり最後にどんでん返しを用意している。
女性を主人公とした警察小説。男社会の中で活躍する「武器」として、本シリーズはキャリア組出身という肩書きと「ネゴシエーター」という専門能力を「装備」させた。女性はネゴシエーターに向いているとの文も本作品中にあるが、主人公が石田に学んだ研修期間は4カ月であとは内勤、経理、そして広報と事件現場から遠い。設定にちょっと無理も感じるが、それだけ当時、特に男社会の象徴である警察組織では「できる女性」へのやっかみが激しかったと、この場では収める。
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