小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

17 電子立国は、なぜ凋落したか 西村 吉雄 (2014)

【あらすじ】

 日本の電子産業、特に大手エレクトロ二クス・メーカーが急速に衰退している。電子産業の生産額は2000年の約26兆円をピークに急減。その後の10年でほぼ半減した。業績悪化の結果、大手メーカーは構造改革の名の下に、事業規模を縮小している。

 電子立国とまで讃えられた日本の電子産業が、なぜここまで凋落してしまったのか。特に凋落が、なぜ他産業ではなく電子産業なのか。そしてなぜ日本で起きたのか。

 政策・経済のマクロ動向、産業史、電子技術の変遷などの多面的な視点で、凋落の本当の原因を解き明かしていくノンフィクション。

 

【感想】

 1980年代に「Japan as No.1」と呼ばれた日本産業、特に半導体を中心とする電機産業は、21世紀になって総崩れとなった。本作品が発刊された前年の2013年にNHKでドラマ「メイド イン ジャパン」が放映され、日本の家電メーカーが「余命3ヶ月」と言われて再建に苦悩する姿を見て衝撃を受けたことを覚えている(このドラマの主題歌「タクミ電機社歌」は秀逸!)。

 

 2006年から顕在化した三洋電機の経営危機は、松下電器産業による完全子会社化という「会社消滅」で決着される。2012年には一時期「亀山モデル」として液晶分野で席巻したシャープが大幅赤字を計上して経営危機に陥り(パソコン黎明期のMZ80―Kには、お世話になりました)、最終的に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が買収するに至る。そしてこの後、東芝の経営危機問題が表面化する。

 ただその原因を本書から読み解くと、一筋縄ではいかない。本作品の前半では、地デジ、自由化、価格競争などの外的要因を述べているが、後半になると日本産業の構造問題にメスを入れている。

 まず半導体を担っていた家電産業では、設計をになう「ファブレス(工場を持たない)部門」と製造に特化した「ファウンドリ部門」の分業が世界的な潮流となる。作者は両者の関係を「雑誌の編集と印刷」という、素人にもわかりやすい比喩で表現し、その効率性を説いている。ところが日本の家電産業は設計と製造の分業を嫌う。そのためコスト面で製造部門が足を引っ張り、設計面でのフレキシブルな体制を維持できなくなる。結局は「アップルにも、鴻海にもなれず」世界的な競争力から「両者とも」脱落することになる。

 インテルを創立した一人、ゴードン・ムーアが提唱した、半導体産業が年々伸びる傾向を「ムーアの法則」とした。大量生産によるコストダウンが、激しい値下げ競争に晒される(「電卓戦争」を例としてあげている)。これをソフトウェアの「付加価値向上」に転化して競争力を高めるためには、分業による体制が不可欠だが、日本のメーカーはその決断ができなかった。技術で発展した日本産業も、経営分野では「Japan as No.1」には到底至らなかった。

 日本では会社形態(もしくは「経営形態」)でのイノベーション(技術革新)が必要だったが、「日本的経営」がもてはやされたためか、その分野では全く置き去りにされた。当初、家電産業の衰退は、1970年代からアメリカが経験した貿易摩擦が、時代を経て日本とアジア諸国に主客を変えて行われていると思っていた。ところが家電業界の現状は日本型経営という組織論に起因しており、第二次世界大戦での敗戦を繰り返す、産業版「失敗の本質」の物語でもあった。