小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

18 我が闘争 堀江 貴文 (2015)

【あらすじ】

 幼少期、家族の中や地元九州の学校での関係に戸惑い、進学校に通いながら孤独を感じていた生活。そんな中パソコンを動かすことで、自分の能力と可能性を感じていた。

 東京に出るために東京大学を受験し見事合格。競馬と麻雀の毎日に溺れるも、次第にインターネットに魅せられて、嵌まっていく。その能力は他を圧し、起業から買収、そして事業規模をどんどんと拡大させていく。近鉄バッファローズ買収に名乗りを上げ、衆議院選挙に立候補、ニッポン放送株買い占めと世間の注目を集め、その後「ライブドア事件」で高転びに落ち、服役の目に遭う。

 それでも自分が納得できないことは、ことごとく抵抗した。真っ直ぐな男の「徹底抗戦」の自叙伝。

 

【感想】

 私に色々なことが重なって落ち込んでいる時に、堀江貴文の「刑務所なう」を読んで元気をもらったことがあった。厳しい環境でも前向きに捉え、その中で目標をいくつか立ててそれを達成しようとする意欲には頭が下がった。また「ライブドア事件」では裁判で徹底抗戦をして、そのため重い判決を受けた。裁判後でも言いたいことはあるだろうが、それ以上の抗弁を控えているのも見事な姿勢と感じた。

 そんな一世を風靡した「ホリエモン」の自叙伝。幼いことの自分と家族、特に母親に対して赤裸々に描かれていたのは多少の驚きを覚えた。本来ならば身内や近しい人に対しては多少のオブラートを包むものだが、その点堀江貴文は容赦がない。エキセントリックな母親と自分の関係、そして自分自身が周囲と多少違っていることなどを描き、幼少期から他者と合わせることを拒否し、合わせずに攻撃されることに対して全く怖れない気持ちが表われている。「三つ子の魂百まで」そのもの。

*刑務所生活を、あくまでも前向きに描いた、元気が湧いてくる作品です。

 

 同じことは起業した後の結婚生活でも表われる。平日は仕事はもちろんだが、会食も多く、帰宅は深夜という日もざら。その分妻から週末は子育てに専念するように要求される。そのため外せない用件で出かけようならば途端に非難を向けられる。それがヒステリックになり、時に殴りかかってくることもありとエスカレートして、次第に気が休まらなくなり離婚に至る。

 当然相手にも言い分はあるだろう。堀江貴文の言い分も、高度成長期のサラリーマンのようなもの。ところが自分の思ったことを書いてどこが悪い、というのが堀江流。若者へのアドバイスで、通勤時間は不合理だから職住接近を勧める考えの持ち主。やはり堀江貴文にとって当時ライブドアで仕事をどれだけ回せるか、そして大きくできるかが目標であり、その渦の中心にいることで自分を実感できたのだろう。

 そしてその容赦のない叙述が、かつての仲間たちにも及ぶ。ライブドア事件の捜査でかつての仲間たちの供述調書を見せられた時のショック。皆で堀江主犯説をでっち上げるために責任を1人に押しつける内容に終始して、裏切られた思いが沸き立っている。

 しかしそれは私から言わせれば仲間に同情する。なぜなら(私も含めて)皆は堀江貴文ほど強くないのだ。「囚人のジレンマ」の中で、誘導とも言える検察側の尋問は堀江も経験したはず。それに対し「徹底抗戦」できる人は少ない。極限の状況下、精神的な疲労も重なる中で、根負けして相手側のシナリオに乗って同意する人が多かったはず。

 逮捕・服役はない方がいい。但し戦後の宰相吉田茂が、戦中に終戦工作などの疑惑から憲兵隊から逮捕された時、周囲に「これで吉田は終戦後のパスポートを貰った」と評した人がいた。終戦後、戦犯に指名されず「吉田学校」で政界に君臨したのは承知の通り。堀江貴文は逮捕・服役により「箔」をつけて、より大きな存在感を持つようになった(しかし、最近はまた迷走している印象があるな・・・・)。 

*出所してから、刑務所生活を制約なく綴りました。