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【あらすじ】
元ゴールドマン・サックスのトレーダー、ケンシ(賢司)は、父の海部直彦との四十数年ぶりの再会の日、父がユダヤ教を深く信仰するユダヤ人も銃殺と一緒にホテルで銃殺された。父は丹後・籠(この)神社の第82代目宮司。籠神社は伊勢神宮の内宮と外宮の両主祭神(アマテラスと豊受)がもともと鎮座していた日本唯一の神社で、境内からは1975年、日本最長の家系図『海部氏系図』が発見され、国宝に指定されていた。そして父と一緒に、ユダヤ教を深く信仰するユダヤ人も銃殺されていた。
銃殺された状況からプロの犯行が予想された。賢司は父と離婚した母、イタリア系アメリカ人のイエナンを始め、ロスチャイルドの流れを汲むデービッド、イラン出身のイラージ、そして中国人の王ら賢司の元同僚たちの協力を得て事件の背景を探ろうとする。するとそこには偶然とは思えない、太古からまつわる日本とユダヤの深いつながりが数多く見つかり、賢司たちはその謎を解くために日本へと乗り込む。
そして賢司たちの動きに合わせて、日本、イスラエル、そして中国の各国政府も動き出していく。
*伊勢神宮と同じく「神明造」が用いられている籠神社(籠神社HP)
【感想】
作者の伊勢谷武は主人公と同じくゴールドマン・サックスでトレーダーを経験後、独立して社長業を務める。その傍らに以前から興味を持っていた「日ユ同祖論」を掘り下げて独自の研究を行い、本作品を仕上げた。当初はAmazon Kindleで発表したが、人気を呼んで書籍化されたもの。
日本の外にでなければ見えない、日本の神話とユダヤの神話の共通性。それは言語、建築物、風習など多岐に渡り、「これでもか!」とばかりに多くの共通点を抽出している。そのトリビアと資料として出される写真や絵画は、日本版「ダ・ヴィンチ・コード」。
但し私は、当初本作品のあらすじを読んで、奇書の1つ「竹内文書」を連想した。昭和10年に公開された文書には、遥か3000年前から日本が世界の中心として、イエス・キリストの墓が青森に、モーゼの墓が石川県あり、欧米の各都市は天皇の子孫が建設したものとしている。宗教の一派が主張したとされるこの文書は、その内容から偽物と判断され、戦前の事情もあり不敬罪として裁判を受けた。
ゴールドマン・サックスでトレーダーを経験した作者の論理は、さすがにそう簡単には破綻しない。籠神社の起源の真名井神社の神紋は六芒星(ダビデの星)。ヘブライ人が使うアラム語は「ヒラガナ」に似ている。古墳から出土した埴輪、山伏の格好、神輿と「アーク」の共通点。諏訪大社の御神体の守屋山は、イスラエルにあるモリヤ山、御柱祭(おんばしらさい)の神事など。これでも一部だが、日本にはイスラエルに古代から共通するものを指摘している。
「不敬罪」を恐れずに述べると、私は各国の神話や宗教の経典などが共通するのは、当然だと思っている。しょせん人間のアタマから生み出されたものであり、自然を前にして限界を迎えた人間が、どのように対応していくのかを辿っているもの。とは言え本作品で取り上げる「トリビア」は、偶然ではすまされない質と量に横溢していて、興味はつきない。
世界の宗教の発祥地となったエルサレムや欧米・中東の厳しい自然の中で、人間の限界を痛切に感じる「一神教」が生まれた。対して日本は、ろ過せずに飲める水が豊富にあり、子供でも手軽に貝と取り魚を釣って動物を捕獲し、米を収穫できた。地理的にも、適度な距離によって海に囲まれて争いから回避できた。そうした恵まれた目の前の自然に感謝することから、日本の宗教は神道として独自の道を歩んだ、と私は考える。
先に取り上げた2つの書評の舞台は戦後間もなくでしたが、本作品は更に遡ったこともあって、ミステリー編では珍しく上下2回に分けました。上巻で古代日本とキリスト教の挿話に基づくイスラエルの共通項を取り上げましたが、下巻に入ると、日本独自の「国つくり」の謎に迫っていきます。