小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

11 イニシエーション・ラブ 乾 くるみ (2004)

【あらすじ】

 鈴木夕樹は友人に代打で合コンに誘われ、そこで成岡繭子と知り合う。一目で繭子のことを気に入るが、純朴で奥手な鈴木はアプローチできない。すると繭子の方がアプローチをして、自然と二人の距離は縮まっていく。冴えない鈴木は繭子のアドバイスで恋愛に、そして私生活に自信を持つ。(side A)

 鈴木は繭子と一緒にいるために大手企業を蹴り、地元静岡の会社に入社するが、会社の都合で東京に派遣され、2人は遠距離恋愛になる。酒癖は悪く時には繭子に暴力を働くことも振るうようになる。そんな時繭子の妊娠が発覚。結婚を決意するも繭子は婚前の妊娠を嫌がり、胎児する。心がすれ違う2人に、鈴木の同僚の美弥子のアプローチもあり、鈴木は浮気をしてしまう。(side B)

 

【感想】

 イニシエーション・ラブ=「通過儀礼的な、大人になるための恋」。今ならば噴飯ものと思われる80年代の恋愛事情だが、当時どっぷりと10~20代だった私には当然の話。恋愛やセックス、そして結婚に対しては重い「儀式」があったのだ。現在の恋愛事情ならば本作品も成立していないであろう。そのため本作品も発刊は2004年だが、舞台は80年代に設定、章題も当時のヒット曲を取り上げている。

 (side A)は純情そうな2人の初々しい恋愛物語。うーん、こんな感情も昔はあったなぁとしみじみと思う、発刊当時で40代になっていた私。当時の世相なども織り込み、ノスタルジックな思いにもかられる。とは言え男の立場から見ると、恋愛小説が苦手に私はちょっと気恥ずかしいものもある。

 対して(side B)は、変わっていく男女の様子を描いているように見える。社会人としていろいろな付き合いもあり、ストレスも溜まって、心のすれ違いが起きて、身近な女性とも出会って・・・・などと考えながら読むも、頭の奥底でチカチカと点滅して何かを訴えている

 そこで疑惑が頭をよぎる。この「トリック」は「〇〇(名は伏す)」で見せた、章を分けて描くやり方を、(side A)(side B)に分けたのではないか? とは言え、途中で何となくトリックが想像できても、伏線がいたるところにあるで楽しめる。また最後の着地をどうするかが興味津々だったが、余韻を残さず、足をピタッと止めて、見事に着地を決めた。

 (side A)(side B)も、男の「鈴木」に焦点を当てて、「繭子」は仕草や匂わせ、そして言葉だけで内面の感情は出てこない。それがモテない読者(=私)から見れば全く自然で、作品の流れをうまく「寄せて」いる。とは言え、ミリオンセラーとなった本作品。楽しめる世代等は限られると思うが、同じような男が多いのか、それとも女性から見ても共感するものがあるのか・・・・

*本作品の続篇とも思える作品は、更にヒネりを加えています。

 

 作者は「男性目線」で本作品を描いた。そして続編とも言える「セカンド・ラブ」でも、最後にひねりを効かせてうまく着地している名作。但し個人的には、その前に同じ作者が刊行した「Jの神話」,「塔の断章」や「匣の中」の独特の世界観に覆われる作品も印象深く、本作品の方が逆に「特別」な印象を持っている。

 発刊されてから数年後にクリームシチューの有田が「しゃべくり007」で本作品を絶賛したところから人気に火がついた逸話を持つ本作品。遂には映画化にまで至ったが、そこで繭子を演じた前田敦子は何故かハマった。歌でも女優でも興味はなかったが、この映画に限り、存在そのものが「繭子」に思えた。「探偵はバーにいる3」でも同じような役を演じてはまり役だった。

 最後に。文庫版の解説を担当した大矢博子の「用語辞典」は労作で、頭が下がります。本作品の前年に上梓された「葉○の季節に○を○うということ(名は伏す)」にある用語集は作品の一部と言えるが、本作品は読者の痒い所に手が届く、行き届いた配慮です(太字がかなり親切(笑))。

前田敦子の代表作(?) こんな役柄を演じさせたら日本一。