小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

13 その人事に異議あり (アパレル:1991)

【あらすじ】

 才色兼備のバツイチ29才、竹中麻希。オーナー社長の御曹司に見初められて結婚するも、恋愛時代の対等な関係から夫婦となると主従関係に変化、また姑との折り合いもうまくいかず2年で離婚。もう結婚はこりごりとの気持ちから、まずは再就職を考える。昔の伝手を頼り女性下着メーカーの広報部に迎えられて、すぐに「広報ウーマン」としての力量を発揮する。

 その会社は、創業社長が40才そこそこの御曹司を後継者に指名するも、たたき上げの副社長はその人事に異議を唱える。そして御曹司自身も世襲に反対する始末。社内のゴタゴタを横目に見ながらも広報ウーマンの仕事で活躍するが、麻希は妻子ある御曹司からアプローチを受けて、仕事に恋愛にと奔走する。

 

【感想】

 元々は1991年に発刊されたが(原題「女性広報主任」)、新たに連載をすることになり、携帯電話の普及など時代設定を書き換えしたら、全面改稿になってしまった作品で、2005年に「新」をつけで上梓された。高杉良が女性を主人公とする作品は珍しい。また「明るい不倫(?)」を描いているが、これも高杉良が捉える1つの「企業の姿」なのか。ちなみに不倫を題材にして大ヒットしたテレビ「金曜日の妻たちへ」が放送されたのは1983年で、不倫を全面に押し出した物語は珍しくなくなっている。石田純一が「不倫は文化」と発言したのは1996年と、発刊以後の話。

*再連載の予定が、時代設定を合わせたら全面改稿となったそうです。

 

 そのためか内容は、男性ミドルが会社の権力抗争の犠牲になるなどの苦しみを描いたものからは、随分と様相が異なっている。離婚してから再就職はトントン拍子で進み、就職してからも即戦力で、仕事を順調にこなして、他社がうらやむほどの活躍振り。そうしたら「また」御曹司からアプローチを受けて、不倫を気にすることなく一気に恋愛モードに突入する。仕事とは言え、不倫相手の自宅に電話して、相手の妻と会話をする緊張感も描いているが、離婚経験であれだけ懲りたはずなのに、と思うのに引き返せない。これも作者が描く1人の女性像か。

 仕事の方も、創業者のワンマン社長と叩き上げの副社長の争いはあるが、広報としてはソツなくこなして、渦中の御曹司と不倫中にも関わらず「広報室沈黙す」のような過重に責任がかかり、板挟みで苦しむことはない。まあこれが本来の企業の姿ではあるが、「本来の姿」を描くのは高杉良の作品らしくない。

 本作品は叩き上げの副社長が、ワンマン社長を諫言して意向を食い止める役割を果たし、会社を正常な状態を保とうとする。世襲に反対して、自分の今後の職も顧みず諫言する人物も、高杉良が舞台とする会社では、すぐに排除される存在でもあり、なかなか見られない。

 ワンマン社長が「若気の至り」で宿した子供の認知をせず、番頭役の副社長がその後の面倒を見続け、「目の届く範囲」として父が君臨する会社に黙って入社させるのはちょっと出来すぎ。これは徳川二代将軍秀忠が1回の浮気で宿した子供を、正室江姫の勘気を怖れたために一旦は遠ざけて、三代将軍家光の側近として使えた保科正之の故事を思い起こす(300年以上前の話である)。

 そしてその「隠し子」が麻希にプロポーズする。こちらも容貌端麗で仕事もできるハイスペック人間。最初は断るが、真っ直ぐな性格で、不倫を承知しながらもぶつかってくる情熱に、ついに「陥落」する。とは言え、不倫相手が次期社長と思われるのに、これからお互いはどうするの?

 最初の発刊はバブル景気の最中で、男女雇用機会均等法もあり(1986年大幅改正し施行)女性もバリバリと働いていた時代。そんな時代に相応しい「アイテム」をいろいろと取り揃えた主人公の「広報ウーマン(死語?)」麻希。それがまた、ハイスペックな男性に立て続けにプロポーズされて羨ましい限りの、高杉良作品としては異色作(とは言え、高杉良は女性を描くのは上手ではないという声もあるww)。

 

nmukkun.hatenablog.com

*同じ広報担当を描くのに、天と地ほど境遇が違っています。