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【あらすじ】
甲子園大会の決勝戦、新潟海浜高校と恒正学園の試合は延長15回を戦って決着つかず、翌日に再試合することになった。
その夜、初の決勝進出を果たした公立の進学校・海浜は、今大会屈指の名投手・牛木が古傷の膝を痛めたことを知る。監督の幅は、牛木を投げさせるように要求する周囲の圧力と、自分が無理な連投をしたため故障し、プロを断念した経験の狭間で悩む。
一方、甲子園常連組の恒正は、監督・白木は優勝を条件に高額の契約金付きで新設高校の監督に就任する話を提示されているが、レギュラー内野手が喫煙しているところを写真週刊誌に撮られたという情報が飛び込んでくる。
そして再試合。解説席で見守るのは2チームの監督を、昔一緒に育てた指導者で癌の手術が迫っている。様々な思惑と人間関係を巻き込んで再試合は開始する。
【感想】
堂場瞬一は元々スポーツ小説「8年」でデビューした作家。膨大な警察小説を発刊し続ける一方で、スポーツ小説も次々と手がけている。その中でも本作品は臨場感に溢れた傑作。
発刊の前年は早稲田実業と駒大苫小牧の決勝戦が行われたので、この戦いが作品創作の契機になったのは明らか。また本作品を読むと、長い歴史を誇る甲子園で繰り広げられた名勝負がいくつも思い出させる。
しかもそれだけでは終わらない。これでもか、と思わせる登場人物たちに降りかかる不運の数々。その内容は山際淳二のスポーツ小説とは一線を画し、スポーツを巡る金銭、欲求、打算、そして人間関係など、ドロドロとしたものも大量に盛りながら、「歴史に残る一戦」を描いている。
平成の甲子園を彩ったヒーローが、相次いでプロ野球界から引退したこの時期。改めて詠むのもまた一興。
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堂場瞬一の作品群の内、警察小説シリーズだけを10「シリーズ」で取り上げましたが、番外で取り上げたスポーツ小説、私がこよなく愛する「汐灘サーガ」の作品群、探偵を主人公とするもの、新聞記者を主人公とするもの、そしてシリーズ物でない書きおろし等、作品は多岐多数。これだけの分量をデビュー(2001年)して20年ほどで書き上げるのは驚嘆の一言に尽きます。まさに「Born to write」、書くために生れた作家です。
堂場瞬一の文章は簡明で分かり易い。これは同じ新聞記者出身の横山秀夫の作品と共通します。
そして会話の妙や人物の心理描写が巧みで、アメリカのハードボイルド作品のテイストが加わります。
更に小道具や食事などのディテールを効果的に描き、挿絵やコマ割りのように視覚にも訴えます。
最後に、背景の街を情景豊かに描くことで、葛飾北斎の「富嶽三十六景」や安藤広重の「東海道五十三次」のような場面が浮かぶ、色彩を帯びた作品に仕上がっています。
このように簡明でありながら、浮世絵の重ね刷りのような構造で仕上げられた作品の数々。しかも堂場作品は、色彩豊かな背景の中で登場人物が勝手に動き出し、そして生活を営む息遣いを感じさせてくれます。もう1つ(重ね刷りの)浮世絵と違うのは、浮世絵が絵師、彫師、刷師と専門を置いて分業制にしているのに対し、堂場瞬一は全て1人にも関わらず、それこそ浮世絵のように大量に作品を作り上げていることです。
堂場瞬一は私と1歳違いの同年代。会社勤め時代は身体を壊したとも聞きます。お身体だけは大切にして、これからも「多彩な」作品を作り続けてください。
そして次回から、戦後から時系列で綴る「刑事物から警察物へ 警察小説20選」がスタートします!
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*「汐灘サーガ」3部作の第1作。私はこれで堂場作品に嵌まりました。