小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

12 極限推理コロシアム 矢野 龍王 (2004)

【あらすじ】

 損保に勤めるサラリーマンの駒形祥一は突然見知らぬ部屋のベッドの上で目を覚ます。その部屋のある建物、「夏の館」と「冬の館」に、駒形と同じように集められた、繋がりも関係も共通項もない7名ずつの男女たち。彼らに謎の主催者は命じる。「今から起きる殺人事件の犯人を当てよ」と。被害者は彼らの中から選ばれていき、しかももう1つの館より早く犯人を当てなければならない。そして被害者になった場合、または不正解、もしくは相手が先に正解にたどり着いた場合は「死」が待っている。

 そして予告通り殺人事件が発生していく。「夏の館」に配置された駒形は、事件の犯人を推理する。

 

【感想】

 1997年にカナダで製作された(低予算の)映画「CUBE」は、迷路の中で繰り広げられる、罠を回避して脱出する内容。何の前触れもなく「CUBE」の中に集められた人々が脱出を図るが、中には罠に陥り命を落とす人も出てくる。そして発端や原因などが最後まで開示されない独特の世界観が、「CUBE」という人工的な構造物とも相まって世紀末の世相にもマッチし、大ヒットとなった。この映画の影響か「特に理由もなく」クローズドサークルに集められ、そこから脱出する設定の小説や映画が立て続けに発表される。ちなみに映画「バトル・ロワイヤル」の上映はまさに世紀末の1999年。

*ほとんどが「CUBE」の中の画像でしたが、引きつけられました。

 

 そんなコンセプトをギリギリまで研ぎ澄ました内容が本作品で「生きる屍の死」や西澤保彦の諸作品にも通じるものがある。突然「見知らぬ者の力で」館に集まられる登場人物たち。そこで「動機も理由もなく」殺人のゲームが繰り広げられる。命を賭けて犯人を推理しなければならないが、そこは初対面のメンバーたち。意識に差があり「なるようになるさ」的な人もいるためか、さほどの閉塞感もなく「ラノベ」的に読み進められる。

 謎の主催者は「親切にも」ヒントを用意した。夏の館へのヒントはアルマジロとセイウチの銅像。冬の館へのヒントは、参加者の1人「木場」という人物。これはミステリーというより「なぞなぞ」のヒントで、「ミステリー脳」からすると全くの死角。これでは正解にたどり着けない(笑)。

 但し館の謎は、読んでいくと「あの」長大なミステリーをイメージするようなヒントもあり、少しずつ正解に近づくことができる。そのため正解も、まあ納得できる。ミステリー的に見た場合のロジックや、物語の盛り上げ方、そして館の記憶を失った後に現実に戻った時の「出会い」など、予定調和的で不満を覚える人もいるだろうが、そこは「ラノベ」と割り切って楽しむべき作品。なお本作品のラストは、個人的には同年に刊行された関田涙の「刹那の魔女の冒険」と重なった。

 本作品は3年後に上梓された米澤穂信の「インシテミル」と設定が似ている、と言われている。こちらはお金を餌に集められた人が行なう殺人ゲームだが、米澤穂信は満を持して取りかかったためか、1つ1つの仕掛けや最後のアイディアなど、本作品とはまるで別物。どちらかと言うと同年にテレビで放映された「LIAR GAME」や、漫画「カイジ」に近い印象がある(とは言え、本作品も「インシテミル」も、映像化された時のヒロインが綾瀬はるかなのが共通しているが・・・・)。

 本作品は、設定も動機も全く説明なく、殺人の「ゲーム」を特化して描いている。それだけにインパクトも強い。これも21世紀におけるミステリーの形。

*こちらも本作品と共に映像化されました。映像化は藤原竜也石原さとみ綾瀬はるかと豪華です。