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【あらすじ】
不況にあえぐ鉄工所社長の川谷信次郎(46歳)は、新しくできた近隣マンションの住人から騒音問題で無理難題を突きつけられ、また取引先から無理な設備投資の頼みを受けて、頭を抱えていた。
銀行員の藤崎みどり(23歳)は、妹が非行に走り、銀行では「任意での」行事に参加しなければならない中で、上司のセクハラ問題も絡み、そして毎日来店する老人の常連客に振り回されていた。
不良少年の野村和也(20歳)は、トルエンを巡ってヤクザに弱みを握られて追い込まれていた。
3者3様で悩みを抱えながらも生きてきたが、無縁だった3人の人生がある事件をきっかけに偶然交錯し、3人の運命は転がり始める。
【感想】
あらすじを簡潔に書いた通りのストーリーで、ネタバレを気にする内容でもないのだが、その描写が微細に入りリアル、そしていかにも「ありそうな」設定のため、読んでいて息苦しいほど。そのため題名の「最悪」が活きて、読んでいる自分も転落していく気分に陥る。
まず鉄工所社長の川谷は、昔から営んでいる真面目で素朴な零細企業の経営者。取引先から無理な要求を突き付けられる場面や銀行でのやり取りは、まさに日本的社会における「忖度」の世界。相手に嫌われないように誠意を見せるが、相手は最終的には「資本の論理」を優先するため、悲しい立場が描かれている。そして近隣マンションの住人も、理解ある態度を装いながらも、人の好い経営者をだんだんと追い込んでいく。頭では「違う」と言いたいが、断る言葉が見つからないジレンマ。
銀行員のみどりは、当時の「銀行あるある」の世界。完全に男社会の中での若い女子行員の立場。ストレス溜まる職場での上司からのセクハラと、周囲の女子行員の同情はするけど関わらない姿勢。そしてどこかセクハラの被害者にも原因はあると思わせる雰囲気。一方家では非行に走る妹の問題も抱え、内心ではいろいろなものが溜まっているのだが、銀行で働く日々を送っている。
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*主婦、警察官、高校生などが、ちょっとしたきっかけで「負の連鎖」に。
不良少年の和也は、17歳で住み込みの土木作業員として働き始めるもすぐに辞めてしまい、堪え性がなく職を転々とするが、どこも長続きしない。収入がなくついにはカツアゲをするようになり、そこから窃盗など犯行はエスカレート。だが地元ヤクザは黙って見ていない。罠を嵌められて、ヤクザから金銭を要求されるまで追い詰められる。
この3人の「不安」が、マグマのように徐々に溜まっていく描写が見事で、どんどん物語に引き込まれる。そして和也の銀行強盗で、3人が交錯し、溜まったマグマが「噴火」する。
ヤクザの脅しに窮した和也は、一緒に行動していた不良少女のめぐみにそそのかされて、姉のみどりが勤務する銀行を襲撃する。そこで勤務していた姉のみどりは自ら人質となって和也とまぐみに同行。更に客として銀行に来ていた川谷も、融資を断られた怒りから、銀行強盗に肩入れをして協力してしまう。
バブルが崩壊して「失われた10年」の時代に描かれた作品。日常生活をしていた主婦が転落していく様を描いた「OUT」は1997年の発刊で、多くの人が日常に不安を抱えていた時代。普段の生活から一皮むけば、皆様々な悩みを抱えて活きていることを見事に描写している。そして転落の後は3人とも、日常生活に縛られていた「しがらみ」から解放された生活に移っていく最後がいい。
その後作者は、「邪魔」,「無理」と、この重苦しい作風を更に「磨いた」作品を上梓している。
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*こちらは5人の登場人物がそれぞれ「無理」な状況に陥っていく。