小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

8 邪馬台国はどこですか? 鯨 統一郎 (1998)

*昨夜の地震はビックリでした! 本棚は崩れ重い家具も倒れはしませんでしたが、かなり動いていました。でも配偶者共々無事で、配偶者は揺れながら電子レンジが棚から落ちないようにと必死に抑えていました(^^) 被害に遭われた方をお見舞い申し上げます。

 

【あらすじ】

1 「悟りを開いたのはいつですか?」

 ブッダは悟りを開いていなかったのではないか。そして何故修行を始めたのかを説明する。

2 「邪馬台国はどこですか?

 邪馬台国は東北の岩手にあり。また大和朝廷が成立した原因についても考察する。

3 「聖徳太子はだれですか?」

 聖徳太子は架空で、推古天皇と同一人物とする。また当時有力者の蘇我氏についても言及する。

4 「謀叛の動機はなんですか?」

 本能寺の変の真相についての考察。明智光秀の立場は大河ドラマ麒麟が来る」の設定に近い。

5 「維新が起きたのはなぜですか?」

 明治維新は、勝海舟が「後催眠」を使っての計略によって起こしたものとする説を述べる。

6 「奇蹟はどのようになされたのですか?」

 イエス・キリストの復活劇は、イエスと12使徒によって計画されたトリックとする説を主張。

 

【感想】

 私の大好物の分野が続く。表題作は創元推理短編賞で最終審査に残ったものの、受賞作には届かない。しかし気になる作品とされて、編集者の尽力により創作を重ねて、短編集として世に出ることになる。

 歴史ミステリーは(前作で述べた通り)論理の飛躍も(多少は)可能。そして「もともと真実というのは、もっとも矛盾の少ない仮説だと定義できる」(本文106ページ)。シャーロック・ホームズの名文句「不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる」(「緑柱石の宝冠」より)を思い出す。

*続篇もまた話が広まりました。

 

 邪馬台国については、新井白石本居宣長時代から、東大と京大の学者たち、松本清張高木彬光、その他数多くの作家や一般人も巻き込んで喧々諤々と論議が続いている。その欠点は余りにも資料が漠然としていて、決定的な証拠がないこと。そのため読み下し文でも10ページ程の文章しかない「魏志倭人伝」の資料を基に、様々な発想と、「牽強附会(きょうけんふかい:こじつけ)」を駆使して「もっとも矛盾の少ない仮説」を提供している。「金印」が発見されれば、この論議も収まるのだが・・・・

 表題作は、数ある「邪馬台国」本でも矛盾が少なく、かつ論理的な展開でまとめられていて、それでいて素人にも解りやすく解説している。そして物語としても、バーのカウンターで、奇説を弄する主人公宮田六郎に対し、過激に対抗する美女、早乙女静香がやり込められる会話が秀逸。高飛車な表現で物語を盛り上げるが、反論は一般常識を集約した内容で、読者の疑問を先回りして答えさせている。静香の師匠三谷教授は大人の立場から疑問を呈するが、これが「奇説」を補強するように仕向けられている。

 そしてこのシリーズは「新・世界の七不思議」や「新・日本の七不思議」と続き、ほかにも多くの「歴史ミステリー」が上梓されている。それにしても、同じジャンルの「QED」の主人公もカクテルにはうるさかった。歴史を愛する2人だが、居酒屋で日本酒、とはならないのかな?

 最後に私が一番好きな会話を披露。

 静香「あなたって、もしかしたらバカ?」

 宮田「哲学的な意味でならイエスだ」(本文60ページ)。

 

*そしてまた日本に戻り、更にこのジャンルを量産しています。