小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

3 瞬間移動死体  西澤 保彦 (1997)

【あらすじ】

 主人公の中島和義は生来の怠け者。社会に出るのを嫌がるも大学院進学に失敗したため、学生から付き合っていた作家の景子と結婚、婿養子になってヒモ同然の状態になった。そんな怠け者が密かに思っていた作家の夢を妻に否定された和義は、妻の殺害を決意する。

 妻はロスの別荘、夫・和義は東京の自宅。和義の特殊能力「瞬間移動」を使えば、完璧なアリバイが成立するはずだった。しかし、計画を実行しようとして瞬間移動したその時、別荘で見知らぬ男の死体を発見してしまう。

 

【感想】

 山口雅也「生ける屍の死」の正当な後継者と言うべきか。現実ではあり得ない状況を設定して、その中でしか通用しない謎を設定して、ロジック一本でその謎を解く「SF新本格ミステリー」(別名「アチャラカ・パズラー(笑)」)の第一人者。その破壊力は強烈の一言。「7回死んだ男」は、時間のループによって同じ一日を9回繰り返してしまう特異体質を持った少年が、祖父の死を食い止めようとする内容。「人格転移の殺人」は、複数人で中に入ると玉突き式に人格が入れ替わってしまうという謎の装置の中で起こる連続殺人事件を描いた。これらの作品も見事だが、なんせ紹介しづらいので(笑)、多少は紹介できる余地のある本作品を選んだ。

 主人公は思い描いたところに瞬間移動できる能力を持っている。但し「条件」をつけて謎を提示する。

 ①飲めない酒を飲んで酩酊しないと瞬間移動できない。但し瞬間移動するとアルコールは抜ける。

 ②身一つでしか瞬間移動できない。服も脱げて移動先では全裸になってしまう(ターミネーターだね)。

 ③自分がA地点からB地点に瞬間移動するのと引き換えに、B地点にあったものがA地点に瞬間移動する。

  何を引き換えにするかは選べない。

 

*1999年に放映されたドラマ「君といた未来のために」(堂本剛仲間由紀恵)に先んじたストーリー

 

 そんな中で妻の殺害を企む夫・和義が瞬間移動すると、そこには全く知らない男の刺殺死体がある。特殊能力のおかげで容疑者からは外れるが、妻や不倫相手の秘書などが疑われ、妻の性格とは正反対の妹と協力を得て事件の真相を暴く内容。主人公の一人称が軽妙で、また妻で作家のキャラクターが「立って」いるために、読みやすい作品になっている。

 謎の設定も本作品は1つに絞っているため、頭の中は整理しやすい。「7回死んだ男」や「人格転移の殺人」も面白いが、この「SF新本格ミステリー」を読むならば、導入として本作品を最初に読むのが有効かもしれない。

 謎は、最後にちょっと「フェイク」した形で判明する。そして「生来の怠け者」である主人公の口調が真剣になって、解いた真相を犯人に対して説明する。ここで主人公は大人になったのか。しかし残念ながら、自分の能力のせいで他人を事件に巻き込んだことに、反省は感じられない(ロスで殺人事件が起きて、名前が「和義」も当時はリスキー)。

 その後の西澤保彦は、旺盛な創作活動で作品を量産する。数多くのシリーズ物をつくり、それぞれ特異な設定を用いて数々の謎を提示して解決させていくが、そのペースには驚きが隠せない。よくもまあこんな条件を、といいつつその謎を解く。それは設定が先か、それとも謎が先に浮かぶのか・・・

 蛇足だが、作家が海外に移住する話、本作だけでなく東野圭吾の作品にもあった。島田荘司が、そして小室哲哉がロス移住したのもこの頃か。

 

*設定が余りにも「限定的」なため、応用が効かないトリックの作品。