小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

2 星降り山荘の殺人 倉知 淳 (1996)

【あらすじ】

 広告代理店で働く杉下和夫は、上司とのトラブルが原因で左遷され、「スターウオッチャー」と呼ばれる星園詩郎のマネージャーとなった。初対面から内心を言い当てる観察眼の鋭い星園に連れられて、山荘に赴く。そこにはUFO研究家、売れっ子の女流作家、妙に色っぽい女子大学生など、癖の強い面々が9人集められていた。その中で女流作家の付き人で、地味ながらも献身的に振る舞う早沢麻子が気になる和夫。

 そして山荘は交通が遮断され電気も電話も通じなくなる「クローズドサークル」となり突如連続密室殺人事件が発生する。スターウオッチャー星園は、持ち前の観察眼と華麗な推理で、犯人を指摘する。

 

【感想】

 読んだ人の感想が両極端に分かれる「かなりな」問題作。私はまず「ふざけるな!」と思い、慌てて読み直すと、隅々まで考え抜かれた記載内容に気がつき、憤りは次第に感動に変化していった。よくもまあ、こんなアイディアを考え出したもの。

 本作品のポイントは、各章の冒頭に挿入されている作者からの但し書き。例えば「和夫は早速新しい仕事に出かける そこで本編の探偵役が登場する 探偵役が事件に介入するのはむろん偶然であり 事件の犯人では有り得ない」と但し書きが書かれている。この章で杉下は新たな仕事として、星園詩郎と出会う。外国人のモデル並みの容貌と、シャーロック・ホームズのような推理を披露する星園。「スターウオッチャー」の仕事はかなり怪しいが、だんだんと星園に心服していく杉下。

 対して、山荘に集まった人たちがまた粗雑な感じ(特に女子大生コンビが・・・)。そのため星園がメンバーの中で1人目立つ存在になり、自然とその場をリードしていく。このように星園のキャラだけでなく。周囲の人物の配置も考えることによって、星園の存在感を浮き上がらせている。

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 作品自体は、登場人物も殺人事件もかなり「ざっくりと」した感じで進み、そのため読むスピードは加速度的に上がっていく。これも作者の巧妙な手口か。また様々な推理の手掛かりもあるが、これは最終的には(本作品の性格上もあるが)そのまま「捨てられる」ものもあり、ギチギチの「本格推理」を求めるマニアから見れば不満も残るだろう。ちなみに事件解決後は、主人公と麻子を初め、登場人物それぞれが「都合良く」別の顔を見せて、強引にまとめているところもまた、本作品らしい。

 このように「一世一代のトリック」を活かすためにはどうすれば良いかを考え抜いて、そこに至るまでに全てを結集して作られた作品。それはまさに敵と言える読者と正面から対峙し、膠着状態になったころで、突然死角からの攻撃を加える徳川家康得意の戦法「中入れ」の戦術。失敗したら作者側が「全滅」する危険もあるが、文章の構成と登場人物をうまく連携させた見事な攻撃。それだけに「やられた感」も格別になっている。

 叙述トリックは以前も取り上げたが、事前の情報を持たずに「スコーーン」とやられるのが読み手の一番の幸せと思う私。なので叙述トリックとわかるだけで身構えてしまう。見つけたら見つけたで興を失うし、「やられたら」敗北感によって遺恨が残る場合が多い。

 このように叙述トリックは取り上げるのも心苦しいし、とは言え触れないと「解らなかったの?」と思われるのが辛いし、痛し痒し(そのため折原一は損をしていると思う)。その点本作品は(ある程度)叙述トリックと分かっていても耐えうる名作。なので今後、叙述トリックを取り上げるのは「あと1作」にしておきます。

 

*タイトルを見ただけで手を取りたくなる、この作家らしい短編集。