小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

8 殺しの双曲線 西村 京太郎 (1971)

【あらすじ】

 東京で発生した連続強盗事件。被害者たちの証言から小柴兄弟が浮上するが、2人は一卵性双生児のためどちらの犯行であるか特定できず、警察は逮捕できない。一方、雪山のホテル「観雪荘」の主人から招待状を受け取った東京在住のタイピスト・戸部京子。婚約者の森口克郎と訪れると、同じように東京から招待された、年齢も職業も異なる男3人、女1人と合流する。

 ところが、その夜サラリーマンの男性が首を吊った姿で発見される。自殺かと思われたが、壁には「かくて第一の復讐が行われた」という言葉と、奇妙なマークを描いたカードがピン止めされていた。さらに電話線が切られ、唯一の交通手段である雪上車も何者かに破壊されていた。そしてボウリング場のピンが1本減っていた。

 

【感想】

 西村京太郎の初期作品は、江戸川乱歩賞受賞作「天使の傷跡」や、私がハマった「名探偵シリーズ」など、本格推理にこだわる作品を見せていた。本作品もその1つで、「ノックスの十戒」(双子・一人二役は、予め読者に知らされなければならない)に遵守し、「双子トリック」の開示をして、物語はスタートする。

 古典的な、人家から隔離された「クローズドサークル」となる雪山山荘での連続殺人事件。そして集められた人々の関連性も問われる「ミッシングリンク」の謎。そしてボウリング場のピンが1本ずつ減る設定は、「そして誰もいなくなった」そのもの。ただし冒頭からノックスの十戒を「挑戦的に」ぶつけている作品であり、当然二番煎じでは終わらない。

 「そして誰もいなくなった」は、圧倒的な「閉塞感」によって、読むと呼吸困難の状態になり、再読できない作品(?)となってしまった(それだけスゴい! の意味)。対して本作品は東京での強盗事件も平行して描かれるため、それがちょっとした「抜け穴」となり、何とか呼吸困難からは解放されて、作品に向かっていけた。そして最後に犯人の手記で真相解明に至る「かの名作」と違って、本作品は雪山山荘の連続殺人事件も、東京の連続強盗事件も捜査の過程があり、ミステリー色が強くなっている。

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 2つの事件ともかなり練られた事件構成で、それが見事に交錯するさまは見事の一言。ミッシングリンク」も2つの事件と犯人の「暗く、切ない」動機に結びつく。「双子トリック」の謎も驚きの形で解明され、全ての伏線が見事に回収される。

 犯人の暗い情熱に自然と思いを巡らしてしまう一方、周到に逃げ道を作った犯人に対して、動機を踏まえた上での警察の取り調べは本作品の結末にふさわしい。本当に隅々まで考え抜かれた、箱根細工のような完成度を誇るミステリー。時まさに「清張全盛期」であり、この時代によくこんな作品を作り上げたかと、正直感動した。そして同様の作品を探しても見つからない喪失感と、受験などの理由でしばらくミステリーから遠のいてしまった。

 その間、西村京太郎は「十津川警部シリーズ」を量産する。私がミステリーの端境期から戻ってきたとき、「十津川警部」はものすごい勢いで増殖していた。そのため十津川警部シリーズは手を出せないまま今日に至っている(赤川次郎作品も同様の理由で、ほとんどが未読)。

 

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