小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

14 涙流れるままに (吉敷竹史:1999)

 昨日はつい「はてなのお題」に乗っかって、お見苦しい投稿を見せてしまいました m(_ _)m

 

【あらすじ】

 吉敷竹史の元妻・加納通子はいつからか自分の性の中に紛れ込んだ「首なし男」に追われる幻に悩ませられていた。そして呪われた自分の運命。過って級友を死なせた事件。婚礼の日に自殺した麻衣子と、直後の母の変死。自分が受けている深い怨念。忘れていた記憶を少しずつたぐり寄せながら、彼女は過去の自分を見つめ、そして乗り越えようと決意する。

 一方吉敷竹史は、霞ヶ関の裁判所ビルで上司の峯脇と言い争っていた老婦人と偶然知り合う。彼女は公園で一人、聴衆もないまま夫の冤罪を訴えて演説をしていた。

 

【感想】

 私からすると島田荘司作品の中で1,2を争う傑作。通子の性的描写がちょっと過剰なのが気にはなるが、心を揺さぶる作品となっている。

 テーマを大きく2つ。1つは「めんどうな女」加納通子がなぜこのような女性になったのか。そこで紐解かれる過去は、心が折れるような事件が何度も起きて翻弄されている姿。そして元から大きな宿命も存在して、それを抱えて生きている。

 もう一つは冤罪事件。吉敷の「嫌な」上司が関連する冤罪事件を調査する。40年前に発生して死刑判決が確定している「恩田事件」。これを吉敷が恩田の支援団体と協力しながら、刑事の目、弁護士の目、そして「作家の目」で事件を見直していく。そこには元妻の通子も関係者として存在し、事件の真相を解明することが、通子を理解することにつながり、二つの流れは河口間際で合流する。

 これ以上、内容には触れない。膨大な量だが実際に読んで欲しいし、書ききれない。なので、ここでは他で気が付いた、本編の内容とは離れたことを記したい。

 

 第1は題名。本作品は週刊誌での連載作品。「龍臥亭事件」が上梓された同じ年の1996年の11月から連載が始まり、3年後に完結した大長編。但しこの題名は、最初からラストシーンを明確に設定していないとつけられない。(推理)作家からすれば当然なのだろうが、これだけの大長編を「大風呂敷を広げて」展開し、それをラストシーンに向けて一機にまとめあげる構想を最初から設定して、実際に途中の破綻もなく描き上げる手腕は見事の一言。

 第2はシリーズ全体の構想力。加納通子が最初に登場したのが1985年の「北の夕鶴2/3の殺人」で、吉敷竹史シリーズの3作目。本作品の連載開始から10年以上前である。当初から加納通子を本作品のような設定を想定して描いていたのならば、とてつもない「遠大な構想」であり、途中で通子の性格から本編の内容を結び付けたのならば、それはそれで本作品に結び付けて創作する力がものすごい。

 「羽衣伝説の記憶」、「飛鳥のガラスの靴」で通子の存在を徐々に印象づけて本作品に至る流れ。また御手洗潔シリーズの「龍臥亭事件」に通子を潜ませる趣向も(このことは本の裏表紙に書いているので許してくれるだろう)、ストーリーテラーとしての面目躍如。してやったりの感がある。

 最後に吉敷竹史。捜査、というより真実にこだわり、時には立場を逸脱して事件に立ち向かう姿勢も、シリーズ当初からのもの。そのため本作品での捜査も、そして最後の上司との「対決」も、「許容範囲」となっている。

 本作品を書き上げて吉敷竹史シリーズは一旦終わる。そして21世紀になり、「夏休みの宿題を全て終わらせた子供のような感じ」で、御手洗潔シリーズを量産していくことになる。