小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

番外 夏、19歳の肖像 (ノンジャンル:1985)

【あらすじ】

 バイク事故で入院して動けない19歳の「私」。病室から見える「谷間の家」を見ていると、そこに一人の美しい女性が住んでいて、その女性に恋してしまう。友人から借りた双眼鏡で見ていると、その女性が殺人を犯したと思われる場面を目撃する。

 しかも父親を工事現場に埋めたのではないかと思われる行動を取っている。それでもその女性が忘れがたく、退院してから「私」はその女性を知るために、思いつめたように行動を起こす。

 

【感想】

 ミステリーから離れた本作品の紹介文を読んだときは興味は失せ、長い間未読のままだったが、ようやく手を取ったら、その瑞々しい文章と内容にすっかり魅了された。

 人間関係が希薄な19歳の「私」。そして謎を秘めた女性、理津子。導入部は映画「裏窓」を思い出させる。そんな秘密を持った理津子に魅かれストーカーまがいの行動をして、何とかきっかけをつかもうとする「私」。女性に対して臆病な男性が、一度は背伸びする夏の冒険。そのけなげな様子から自分の失ったものを見つけ出して、受け入れる美しい年上の女性。その関係と微妙な距離感、そして名前を語らず「私」で描写する一人称の文体は、村上春樹の短編を読んでいるかのような印象を受ける。

 2人の距離がだんだんと近づいていく様子が、いい。海水浴などでいいところまで行くが踏み切れない「私」が、ある事件をきっかけに結ばれる。そして理津子の危機に、自分の身を顧みずに助けに行くも、そこで「女の心は秘密を沈めた深い海(映画「タイタニック」より)」なのがわかる。そんな現実を大人になる前に、又は「大人になるために」知ることになる。

 プロローグとエピローグに書かれている絵本の挿話が、また本編と絶妙な距離感を感じて、更にいい。理津子から送られた1通の絵葉書。壁にピン止めされていたのが徐々に視界から遠ざかっていく様子は、「私」が成長していく証。それでも絵葉書を捨てられない「男心」。そして絵葉書にふさわしい「居場所」を求めて、「私」が心奪われた「一軒の可愛らしい西洋館の一生」を描いた絵本に行き着く。新築の時はケーキのようにお洒落な館だったが、年を経るごとに次第に汚れ、そして朽ちていく。そんなストーリーの絵本に絵葉書は収まった。15年後の回顧はノスタルジーに溢れている。そして回顧している部屋は、日に当たらないが外は地中海の鮮やかな海が広がる、白い壁のたたづまいを想像させる。

 夏の強い日差しと共に、影もまた濃かった19歳の夏を切り取った作品。年を取ってから読むとまた味わい深い。

 *中国で映画化されています。

 

 島田荘司20選。最初は御手洗潔シリーズと吉敷竹史シリーズを分けて構想していたのですが、途中、作風の変化や「龍臥亭」の交錯等もあり、年代順に変更して書き記しました。振り返ると、吉敷竹史シリーズが7年という短期間に、13作もの水準を超えた作品を発刊し続けたことに改めて驚かされます。そして御手洗潔シリーズも、どちらかというと初期作品に重点を置きましたが、名作「異邦の騎士」と「叙述三部作」(私が勝手に言っています)は、ネタバレを避けて感想を書くには私の筆力が足りず「逃げました」。

 

 ここでちょっとこじつけめいた話を。「占星術殺人事件」で同作品を、日本ミステリー界の「サージェント・ペパーズ」と評しましたが、島田荘司の作家生活を見ると、作者が信奉するビートルズと同じ軌跡を描いていると感じます。

 初期は軽快なラブソングを立て続けに発表してバンドの地位を築きましたが、「HELP!」あたりから作品にシャッフルを始めて徐々に奥行きを持たせました。変わった楽器などを使うようになり、そしてコンサートでは再現不可能な音楽に至ります。それとともに「HEY JUDE」のような、当時としてはラジオには流しにくい長大な作品も作り上げます。

 その後はメンバーの個性を活かした作品に移行していき、最後は「LET  IT  BE」のような、まるで讃美歌のように純粋で、心が洗われる音楽にたどり着きます。その軌跡を思うと、具体的な作品名がいろいろと連想されます。

 島田荘司には敬称をつけ加えたくなりますが、他の作家と同様、私の中では歴史上の人物と同等の位置づけで敬称略としています。不快に思われた方はご容赦ください。

 作家活動を始めて40年。その道のりはまさに「The Long and Winding Road」だったと思います。ですが、これからも目を見開くような作品を期待しています。島田「先生」!

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 さて、島田荘司とほぼ時期、現在まで活躍している「大物」ミステリー作家がもう1人います。

 東野圭吾。しかし20選に絞り込むには、余りにも多くの作品を高い水準で上梓し続け、また多くのブログで紹介し尽くされ、そして全てといっていいほどの作品が映像化されているため、ここではスルーしようかと思いました。

 でも「あること」に気づいてから考えが変わって、このブログで取り上げることにしました。

 題して東野圭吾 20世紀の20選」。国民作家の地位を築くまでの、初期の作品に絞ったくくりで、次回から開始します!