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【あらすじ】
今年逝去した伝説的な音楽家ホフマンによる「本物の『ギフト』とするか、それとも『災厄』にしてしまうのかは、皆さん、いや、我々にかかっている」と、刺激的な推薦状を携えて登場した16歳の少年、風間塵。塵が演奏する破壊的とも言えるピアノ演奏は、審査員の心に衝撃を与えるとともに、強烈な反発も生じさせた。激論の審査の末、塵は芳ヶ江国際ピアノコンクールのオーディションを通過する。
そのコンクールには、天才少女としてデビューするも、13歳の時にマネージャーをしていた母が急逝したショックでピアノが弾けなくなり、しばらく音楽会から離れていた栄伝亜夜(えいでん あや)が参加していた。
亜夜が子供の頃に通っていたピアノ教室に、マサル・カルロス・レシ・アナトールがいた。当時は亜夜の実力が上手だったが、マサルがフランスに帰国するとジュリアード音楽院でピアノを学ぶと才能を開花させていた。優勝候補として芳ヶ江国際ピアノコンクールに参加していた。
コンクールでは異色の、28歳で妻子持ち。楽器店勤務の高島明石も参加していた。会社員の傍ら睡眠時間を削って練習を重ね、年齢的にラストチャンスとの決意を固めていた。
この4人を含め90人近くのコンテスタントが、1次、2次、3次予選を経て、本線で優勝の座を争う。
【感想】
「チョコレートコスモス」で演劇界の天才を描いた恩田陸が、本作品ではピアノ界に生息する天才を、3人使い分けて表現する「快挙」を成し遂げた。作者はインタビューで、子供の頃にピアノを習った影響に端を発して、本作品の構想が浮かんだという。しかし量産作家の作者が、本作品に関しては完成するまでに12年を費やした。
私に音楽を鑑賞する能力はないが、1977年に放映された高視聴率ドラマ「赤い激流」で、主演の水谷豊が練習したショパンの「英雄ポロネーゼ」は耳に残っている。そして1985年、旧ソビエト出身で若干19歳のスタニスラフ・ブーニンがショパンコンクールで優勝を飾った英雄ポロネーズの演奏は、まるで「悪魔が大きな斧で、軽やかにキャベツの千切りするよう」(共感が得られない比喩ということは、承知の上です)に聴こえ、深く心に刻まれている。
3人の中でも突出した天才として表現されている風間塵。蜜蜂農家の子に生まれた、蜂のように自由奔放な塵だが、冬の寒々とした空の下で亡きホフマン先生の不在を感じる時に「遠いところで低く雷が鳴っている」。この雷をきっかけに塵は覚醒し、亡き師匠のもとに音を届けようと決意する。
既にこの世にはいないホフマンが残した推薦状によって、塵が奏でる音という「遠雷」は、徐々に音楽界全体に近づき、その雷は大きな衝撃を与えていく。これは恩田作品でよく登場するパターンで、特に「権威」を持つ審査員たちは右往左往され、コンクールの審査にも影を落とす。
ではなぜ風間塵は『ギフト』であり『災厄』なのか。これを塵とは異なる才能を持つ2人の天才と1人の秀才を通じて描かれる。4人はコンクールを通じて切磋琢磨をすることで才能が引き出され、自らも思い至らなかった境地に導かれていく。

「弾け 感じるままに ショパンコンクール 若き挑戦者たち」。NHK制作の番組を視聴し、コンクールの裏側をのぞき見たことで、ふと思いついたことがあります。
私は本作品で登場する高島明石は、3人の天才と比べて接点が少なく、本作品においては「情報過多」の存在と感じました。けれども高島明石は、コンクールで必要な「敗者」を、読者に最も共感を生む人物として造形された存在なのだ、とひらめきました。
それは、小説では異例とも言える、本作品の最終ページからも想像できます。