![花の生涯(上)【電子書籍】[ 舟橋聖一 ] 花の生涯(上)【電子書籍】[ 舟橋聖一 ]](https://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/rakutenkobo-ebooks/cabinet/2743/2000003772743.jpg?_ex=128x128)
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【あらすじ】
井伊家13代藩主直中が隠居後に生んだ14男の直弼は、300俵をあてがわれた部屋住みの身。自らを花の咲くことのない埋もれ木に例え、「埋木舎」と名付けた邸宅で無柳をかこっていた。三味線と男女の道はたか女という魅力ある女性から、学問は貧乏浪人の長野主膳から学び、時に水野忠邦の天保の改革を批判するなど、好き勝手なことを放言して暮していた。
ところが直弼の兄にあたる藩主の後継と、その後就任した藩主が立て続けに亡くなり、直弼に次期藩主の立場が転がり込んでくる。直弼は藩主に就くと、前藩主の遺命と称して15万両を士民に分配して家臣の心を掴む一方、前藩主の側近たちを罷免して、長野主膳ら意の通じる人物たちを抜擢していく。
1853年、黒船来航。老中首座の阿部正弘は国難に際して慣例を破り、雄藩の大名に対策を諮間する。直弼は鎖国を続けることは困難と考えるが、水戸藩主徳川斉昭は攘夷を強く唱え、幕閣と徳川斉昭の対立が先鋭化していく。アメリカからは和親条約に続けて修好通商条約を求められるが、混乱の中阿部正弘が死去し、後を継いだ堀田正睦も朝廷からの条約勅許獲得に失敗、辞意を表明した。
混乱の中で大老に就任した直弼は、筋を通すことを政道の第1に置いた。本来は政治に不介入だった御三家、特に徳川斉昭や朝廷による政治介入を断固として改め、また英国が清国のアロー号事件を解決し、日本に強硬な態度を示してくる情報も持たされてきた。ここに来て直弼は条約調印を決断する。
朝廷の勅許を待たずに調印をしたことに怒った徳川斉昭と水戸藩主徳川慶篤、尾張藩主徳川慶恕が登城して直弼を非難するが、直弼は「不時登城」を理由に執務の間は面会せず待たせ、話を伺うにとどめた。また一橋慶喜を将軍継嗣とする要求も水戸派の陰謀として排除し、紀州藩主徳川家茂を継嗣と定める。
直弼は返す刀で幕政を乱した斉昭ら4名と一橋慶喜に隠居、謹慎、登城停止などの処罰を行った。これに憤った朝廷は、密勅を水戸藩に下して幕府政治を非難したが、直弼は厳しい態度で捜査を進める。長野主膳はたか女から情報を得て、首謀者と見られる梅田雲浜や頼三樹三郎らを捕縛すると共に、越前藩士橋本左内、アメリカ密航を企てた吉田松陰とその師匠佐久間象山などには死罪、牢獄、蟄居などの処分を行う。
「安政の大獄」と呼ばれた厳しい弾圧に、水戸の家臣たちが強く反発する。1860年3月3日、直弼を乗せた駕籠は雪の中、外桜田の藩邸を出て江戸城に向かう途上、水戸脱藩浪士と薩摩藩士の計18名による襲撃を受けた。抜刀する間も無く刺客たちに切り伏せられ、駕籠に何度も刀を突き刺した後、瀕死の直弼を駕籠から引きずり出し首を刎ねた。時に井伊直弼、享年46歳。
直弼の死後後ろ盾がなくなった長野主膳は捉えられて斬首。そして情報を集めて安政の大獄に協力したとして、たか女も捉えられ土牢の刑となった。通行人に鋸引きを強いる刑だが、たか女の達観した表情の美しさから傷つける者なく、命を長らえて落飾し、直弼と長野主膳を弔うことに一生をささげた。
【感想】
1963年に放映されたNHK大河ドラマの第1作。子供の頃はなぜ本作品が大河ドラマのスタートとなったのか疑問だったが、解り易いストーリーと女性の登場シーンも多いことで取り上げられたという。
井伊直弼と配下の長野主膳は安政の大獄以降、勤王の志士から維新後になっても嫌われた悪の象徴となり、その名誉回復の機会は戦後までなかった。本作品では、大老になってからは筋を通して決断を下し、特に勤王派の盟主水戸斉昭を、耄碌した老人扱いにして直弼の正続性を描いているが、流布している話と違うので、違和感はぬぐえない。
通説では「不時登城」や一橋慶喜からの詰問に対して、直弼の対応は「恐れ入り奉ります」とのみ回答して言質を与えず、後日一方的に処分を下したとされている。また本作品ではかなりの部分をハリスと「唐人お吉」の話に割いていているが、こちらは直弼との絡みが少なくちょっと疑問符。但し直弼の正室と側室も含め、この時代特有の女性の運命を描く必要もあったのか。
そんな中で、筋を通して開国に、条約調印に、そして将軍継嗣問題に決着をした直弼の果断は1つの見識である。また朝廷から水戸への密勅は、幕政に関わるものからすると許すわけにはいかず、弾圧を行う側にも「理」はあったとも思われる。
しかしこの後時代は旋回した。直弼が弾圧した側に追い風が吹き、殺害された橋本左内や吉田松陰は英雄として崇められ、直弼や長野主膳は悪役として歴史上に名を刻むことになる。そんな中生き残った、たか女のその後が多少は救われる。
藩主の14男に生まれ、300俵の部屋住みで家臣たちからも軽く見られ、自らを花の咲くことのない埋もれ木に例えた直弼。そんな立場が運命の悪戯で、5代将軍綱吉のように、そして8代将軍吉宗のように、日の当たる場所に登場することになった。
しかし幕末の激動期に藩主に、そして大老にと就任し、日の当たる場所で咲いた「花の生涯」は、若い時三味線をし、国学を学び、好き勝手に政治を批評してきた直弼にとって、そして周囲の者たちにとって、幸福な人生だったのだろうか。
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*たか女の生涯を描いた作品。悪女と見られた女性を、違う角度から光を当てるのが「諸田玲子流」です。
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