小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

20 スティーブ・ジョブズ ウォルター・アイザックソン (2011)

【あらすじ】

 1960年代から70年代のカウンターカルチャーの中で育ったスティーブ・ジョブズ。ヒッピー風の生活を営みLSDも嗜み、イスラム教や座禅にも興味を持つ青年だった。高校時代にプログラミングの天才、年上のスティーブ・ウォズニアックと出会う。ウォズニアックは電話料金を「タダにする」装置を開発しジョブズが販売を手がけた。

 大学に行くもまともに授業を受けずに中退したジョブズはアタリ社に勤めた後、ウォズニアックが制作した「Apple Ⅰ」の販売を手がける。回路むき出しでキーボードもないこの機械が、バイトショップに約100台納入される。それで気をよくしたジョブズは「Apple Computer」を設立し、いよいよ「Apple Ⅱ」の製作に取りかかる。1977年に発表された「Ⅱ」は、200万台を超える大ヒットを飛ばした。その後社長に招いたジョン・スカリーから追放されるが、何度も復活して、世に「魅力的な」新製品を提供し続けた。

  スティーブ・ジョブズ東洋経済オンラインより)

 

【感想】

 経済小説編のラストは、アメリカから「天才」を招いた(ホントは孫正義で終わりたかったが、作品が残念だったのでww)。コンピューター業界のビートルズ、と私が勝手に思っているスティーブ・ジョブズジョブズビートルズとの共通点は、カウンターカルチャーだけでなく「時代を撃ち抜いた」ことだと思っている。

 ジョブズは天才的な「技術者」ではない。製品を作り上げる技能はスティーブ・ウォズニアックに到底かなわず、その出会いがなければ世界のコンピューター地図もだいぶ変わっていたかもしれない。但しジョブズの天才性は、何が売れるか、どうやったら売れるかが直感的にわかったことだろう。そのためにロゴのピリオドの位置を始めとして、デザインには徹底的にこだわる。そして新しい商品のプレゼンテーションも準備を繰り返し行い、遂には誰もマネできない「ショー」にまで進化する。

 ジョブズが周囲を巻込み、そして同調させる能力。「現実歪曲フィールド」と呼ばれた才能は、時に魔法となり、時に毒物となる。不可能と思えることを可能として、部下に対するムリな要求も実行させる魔力を持つが、魔法から醒めると人間は現実的になり、保守的になる。そのため現実的な経営者である「ペプシ・チャレンジ」のジョン・スカリーから、魔法から醒めた役員の総意として、創業者追放という目に遭ってしまう。

 

    

*「プログラミングの天才」スティーブ・ウォズニアックと「ペプシチャレンジ」ジョン・スカリー(ともにウィキペディアより)

 

 但し「天才は量産する」。秀才はロジスティックな組織を築き上げ王国と作るが、天才は魔法を何度もかけることができて、「おとぎの国」を建国する。Apple Computerに「再臨」したジョブズは、iMac,iPod,iPhone,そしてiPadと時代を捉える商品を次々と生み出し、瀕死の状態だったApple Computerを、一時時価総額世界一になるまで回復させる

 スティーブ・ジョブズは、自らを「文系と理系の中間」を歩む存在として考えていたそうである。そのため製品開発の知識は持つが、所謂「発明家」ではなく、製品を理解して、それを売り出すにはどのようにしたら良いのかを考える。そして世間がどのような商品を求めているのかを理解する才能に突出していた。日本で言うとソニー井深大やホンダの本田宗一郎とは異なり、敢えて言えば、技術者であり経営者でもあったソニー盛田昭夫に近い印象がある。

   *「生涯のライバル」ビル・ゲイツ(CNNより)

 

 レオナルド・ダ・ビンチが語ったとされる「シンプルは究極の洗練である」を信奉したジョブズ。その通りの商品哲学を徹底して求め妥協を知らず、そのために新商品の開発が遅れることもしばしばだった。その人生も自分の欲望の目指すところに最先端で歩み、そして病気で任に堪えられないとわかった時点でCEOを退任する。仕事を優先したため癌が全身に転移し、56歳の若さで天はその才能を召し上げることになる。

 

nmukkun.hatenablog.com

*そして「天才は天才を生み出す」。

 

 経済小説編、これにて終了!