小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

7 小説やらまいか(豊田佐吉) 北路 透(2019)

【あらすじ】

 現在の静岡県湖西市に、農家だが器用だった父・伊吉が大工も請け負っていた家に佐吉が生まれた。父譲りで子供のころから器用だった佐吉は、12歳になると大工の見習いを始める。また母が生計の足しとして営んでいた織機の部品が壊れたが、見よう見まねで直してしまう。母から驚かれつつも感謝され、発明家への道を進む決意をする。大工を継がせたい父の意向を振りきり、家を出ては見学と研究を繰り返す。また結婚するも妻と生まれたばかりの子供を顧みず、妻は家を出て行ってしまう。

 それでも発明に没頭し、人力織機から自動織機まで、生涯で発明特許84件、外国特許13件、実用新案35件の発明を重ねる。会社経営は様々な危機に直面するが、支援者や番頭に恵まれて事業は拡大し、現在の「世界に冠たる」トヨタ自動車の礎を築いた。

 

【感想】

 豊田佐吉が生まれた年は慶応3年。翌年明治に改元し、豊田佐吉からが実質明治以降に活躍した人物を取扱うことになる。作家の北路透は郷土の偉人を掘り起こすことを使命としているためか、豊田佐吉も大分「甘く」描いている印象は否めない。封建制度が残っている中、父の意向を聞かずに時には無断で出奔するのは、当時としては周囲から、かなり厳しい目で見られただろう。そんな中発明への情熱のため周囲が見えず、そのために妻と子を顧みず、1年足らずで妻が家を出るまでに至る。小説では、押しつけられた結婚話として扱っているが、自身の決断で結婚し子供も生まれた以上、何らかの責任を果たさないと、「芸のためなら女房も泣かす浪速の春団治になってしまう。

   豊田佐吉ウィキペディアより)

 

 発明を行うためには資金が必要で、借りた資金は発明品を売ることによって返済しなくてはならないが、どうも会社経営はうまくいかない。「発明家あるある」で経営能力は疑問な佐吉だが、本作品では登場人物欄に「敵」とまで区別して、横領や経営を簒奪しようとする登場人物を登場させている。物語の軸を勧善懲悪として、「敵」から何度も嫌がらせや汚い手段を受けるために、佐吉は何度も会社経営の危機に直面する図式になる。但し同じ人間から同じような手段で何度も繰り返し邪魔を受けることを見ると、経営者というよりも人間としてどうなの? と疑問が生じてしまう。

 そんな佐吉だが、支援家もたくさん生まれ、佐吉の人柄と発明品の品質などから、資金援助を行うものも増え、「敵」の謀略(?)に対しても、技術力を信じた「チーム佐吉」で危機を回避していく。また番頭も、後に財界の重きを成す人物が輩出していった。西川秋次は佐吉が失意の時も共に行動し、また佐吉が国内で手が一杯な状況を見て上海進出を一手に引き受けて成功させた。そして上海から日本への資金的な援助を惜しげも無く行い、それば佐吉の長男、喜一郎の時代にも続いた。石田退神谷正太郎そして奥田碩ら後に日本財界で重きを成す人材も、トヨタの中では決して出しゃばらず「番頭」としての立場を通した。

   豊田喜一郎ウィキペディアより)

 その中で佐吉が一番恵まれたのは、長男の喜一郎だろう。明倫中学から旧制二高、そして東京帝国大学の工学部と法学部で学び、技術と経営の才覚を磨いた。その素質は父譲りで、発明になるとやはり周囲が見えなくなる。但し佐吉が職人肌と直感で発明をするタイプに対して、喜一郎は科学的根拠に基づいて発明を導き出すタイプ。その上で性格も温厚で経営者としての資質にも恵まれ、昭和初期に自動車の将来性に賭けて、当時の日本の技術力と1企業で賄う資金力を考えると無謀とも言える挑戦を行い、そして成功させる。

 戦国時代、愛知県は信長、秀吉、家康の「三英傑」を生んだ。そして明治以降、浜松から岡崎の地域で、豊田佐吉本田宗一郎、そして中学の時期に過ごした井深大という、3大発明家が生まれている。そして彼らは、単独でも有能な経営者の能力を持った人物の支えを受けて、日本でも有数の企業を育て、そして日本を牽引することになる。

 

nmukkun.hatenablog.com

*そんなトヨタ(?)の最近の姿です。