小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

13 破局の舞 千代田 哲雄 (2005)

【あらすじ】

 ディーラーとして活躍していた息子が、国際財閥を形成するテーラー一族の罠に嵌まり、追い詰められて自殺してしまう。父親である邦和銀行副頭取の大浜和孝は、復讐の機会を狙っていた。金融だけでなく軍産複合体も含んだコングロマリット(企業複合体)を形成し、世界経済を実質牛耳っていたテーラー一族に対して復讐を企てるのは、銀行だけでなくグループ、そして日本経済をも危機に晒す怖れがあった。

 アフリカの小国で大量に発見された白金。その将来性を見抜いた邦和グループは白金をいち早く独占することで、テーラ-一族の牙城を崩せる機会が生じたと判断する。危機管理会社に勤務する、警視庁捜査二課出身の飯沼義昭を呼び寄せて秘密裏に計画を進めたが、テーラー一族もその不穏な動きに気づく。為替市場では日本経済を壊滅に導こうとし、またアフリカでは「武力」を使って妨害をして大浜の野望をくじこうとする。

 折しも金融危機の状況下で、政府からは破綻寸前の銀行の救済を強く求められ、また自行の海外支店ではディーリングの失敗による巨額の損失が発生する中、大浜は目的を達するために厳しい舵取りを迫られる。

 

【感想】

 ロスチャイルド家を思わせる、世界を影で支配するユダヤ系のコングロマリットを相手に、日本の金融機関が一泡吹かせようとする物語。本作品が発刊された頃から注目を浴びたレアアース希土類元素)の問題と世界情勢を絡めて描くのは、翌年中国の政治・経済体制の崩壊を綿密な構成に基づき描いた「チャイナゲーム」の作者らしい雄大な構想。

 

 とは言え、世界を牛耳ろうとする財閥に一泡吹かせようとするには、例え「財閥系グループの総力を挙げる」とは言え、サラリーマン出身と思われる一銀行の副頭取では格が違う感は否めない。グループの精鋭を結集したプロジェクトとしているが、日本で対抗するには、せめて「政・官・財」が一体にならないという思いは残る。

 主人公の1人と言える、危機管理会社に勤務する飯沼義昭。警視庁捜査二課の出身で、大浜副頭取も全幅の信頼を寄せてプロジェクト参画を「指名」している。リスク管理について大和銀行ニューヨーク支店における巨額損失問題を例に出して適切なアドバイスをしているが、世界を支配する一族に対抗する、国際的な視野と経験を持った人物設定とは思えない。家族の病気という問題に後ろ髪を引かれながらこのプロジェクトに参加している状況を見ると、不安感は拭えない(そしてその予感は的中する)。

 大浜副頭取と学生時代からの盟友で、鉱山会社社長の水内博。現地で命の危険に晒されるも目的を達成しようとする「楽天家」の様子が大浜と対を成して描かれている。できればこのキャラは、例えば白金を発見する経緯など、専門的な分野での活躍する場を紙面に割いても良かったのではないか。そしてこの思いは、ディーラーで大浜副頭取の密命を結局はあっさりとやり遂げる野本麻里にも当てはまる。2人ともいいキャラなので、もっと活躍の背景を知りたい気持ちにさせる。

 テーラー一族の血も涙もない「一族の掟」はなかなかの迫力。それだけに、アフリカで産出される白金についての情報収集、また邦和グループの狙いを最初は誤認するなど「影で世界を支配する」財閥とは思えない点も疑問に残る。

 いろいろと文句は言ったが、世界金融とレアアースを結びつける構成は見事。また私が疑問に思ったことも、副社長のエネルギーの源泉を描くことで物語全体を支えている。最後は「巨大な力」が働くことで世界は「予定調和」に戻ろうとするのだが、このスケールでこの分量は物足りないのが「欲張り」な感想。

 

ロスチャイルド一族の盛衰を描いた、ノンフィクションの傑作です。