- 価格: 836 円
- 楽天で詳細を見る
【あらすじ】
大手生保・清和生命はバブル崩壊により、それまでの積極経営のツケが回されて破綻の危機に瀕していた。顧客からは大量の解約に見舞われ、救済を求める先からはキャンセルされる。その窮状を観て「ディール」を画策する外資系投資銀行。
会社内で「汚れ役」を歩んできた社長室次長の各務裕之は、会社に未練はないが、会社を潰せない「わけ」があった。彼の同期で、周囲から将来を嘱望されて出世してきた中根亮介は、持ち前の正義感を武器に、生き残りのために奔走する。但しその中根にも、過去に会社の都合から、自分の意志を曲げていた過去もあった。
そんな会社が絶望の縁に立たされた中、彼らは社長の命を受け最後の大きな賭に打って出る。
【感想】
「ハゲタカ」で一世を風靡した真山仁がデビュー前に、生保出身者と共著で著わした実質的なデビュー作ということで、後から注目を浴びることになった作品。真山仁も自ら、今ならこうは書かないなどとの感想を漏らしているが、その一方でデビュー作としての「熱さ」も、真山自身が認めている。
同期の各務裕之と中根亮介は「ジキルとハイド」的な存在。各務は母が芸者で会社首脳陣との因縁がある関係。そのため近親憎悪的な感情を会社に持ち続けて、入社してからも自分の節は曲げず、会社員らしくない命令違反や暴力を繰り返す存在。反対に中根亮介は保険金によって大学進学が可能になったと清和生命に恩義を感じ、慶応大学ラグビー部主将から、あまたの有力企業の誘いを蹴って就職した、人望厚いスーパーマン。
*専門知識を網羅した、真山仁らしい作品でした。
対照的な2人だが、バブル時には2人とも「バブル商品」に関連する。各務は一時的な左遷で営業所の支社長になり、「生保レディ」の管理を担当するが、そこではサラ金に手を出して困窮する人の姿があり、清和生命が開発した商品「サラ金保険」によって自殺した人を目のあたりにする。生命保険会社が「社会悪」に手をかして良いのか憤る各務は、救済基金立ち上げを条件に、会社の汚れ仕事を引き受ける。
対して中根は、エリート街道まっしぐらの中で「変額保険」を担当する。相続対策に借り入れを増やすようにと、銀行と二人三脚で巨額の借り入れを誘導する商品。バブルの頃は運用益で返済もまかなえたが、バブル崩壊により担保価格割れとなり運用益も当然なくなり、債務者に巨額の負担を押しつけて社会問題になる。そこで被告の代表として裁判所に出廷して、自分の思いに反する証言を求められる。
バブル時の生命保険会社の裏側を交えて、バブル後の危機的な状況を描く。「ダブルギアリング」とは、日本特有の株式持ち合い制度によって、巨大な資金運用会社であった生命保険が破綻すると、巨額の株を保有していた反動で銀行の経営まで影響し、「生保発」の日本経済破綻のシナリオを想定したもの。それを何とか阻止しようとする金融庁や大蔵省。そして銀行への参入を目論む外資も交えて描いている。
最後まで汚れ役として現首脳陣と会社の「決着」とつけようとする各務。そしてその後の希望に中根を温存しようとする。美しい同期愛だが、共著の真山仁が語っているので遠慮なく言うと、どうも登場人物の描き方が「こなれていない」印象がある。2人とも会社員としては余りにもキャラが立ちすぎている。そして大蔵省に勤める父親を殴りかかり血まみれにするほどのキャラを持たせた、投資銀行に勤める槇塚薫、「竹浪」金融担当大臣の登場なども描き方に対して「伏線」が回収しきれていない。
・・・・と、文句は言ったが、この「詰め込みすぎ」のために、バブル時の狂乱の中身と会社破綻に向けた内容は、俄然興味深く読むことができた。共著の一人、生保関係者からどうしても書いておきたかった「熱さ」が詰まった作品である(対して、「ハゲタカ」はテレビでも有名になったため、ここで取り上げるのは控えます)。
- 価格: 880 円
- 楽天で詳細を見る