*Amazonより
【あらすじ】
かつて「相場」の中心であった大阪・北浜は、同じ年に創設された東京の兜町の株式市場におされて、今は見る影もない。また兜町の「相場」は、大手証券会社による、政治家や大手企が資金調達をするために情報操作などで相場を管理している。本来の流通市場として北浜の株式市場が再興すれば、「官営カジノ」化している兜町の市場は崩壊する。大阪に本拠を持つ天王寺証券の東京支店長、五代信一郎は、東京で大手証券会社の妨害に対しながら、北浜市場の再興を目指す。
【感想】
安田二郎の作品は本作品もそうだが、デビュー作「兜町の狩人(改題:マネーハンター)」も情報量が濃い。仕手戦の裏側や株買い付けのやり取り、「当たる」銘柄の選定から調査、そして大手証券会社の目論みなど、虚構の中に真実を時折、ではなく「多々」挿入して、どこまでがホントでどこまでがウソか、の見極めが難しい。そのためデビュー作も、出版予定が大手証券会社の「圧力」がかかり、出版停止になるほどの大物振り。出版社を変更して何とか発刊された経緯を持つ。当初は清水一行の直系と感じていたが、最近では、内容やら経緯やら、時代もジャンルも違うが、濱嘉之の公安小説を読んでいる時に、安田二郎の作品を思い出したもの。
主人公の五代信一郎を、北浜に本拠を持つ証券会社の社員としているところが、本作品のミソ。兜町の株式市場は、大手証券会社とその上の(当時の)大蔵省が牛耳っていて、大多数の一般投資家が予期せぬ暴落で損をする時に、一部の人間は「予定通り」の値動きと承知している。そして一部の「上級国民」がもうけるシステムになっている。
この株式市場の「官営カジノ」化に対して、作者の憤りが作品全体に貫いている。デビュー作では、一匹狼が巨大証券会社に立ち向かう構図で描いているが、本作品では、「今は廃れてしまった」北浜市場が本来の流通市場の役割を果たせば、「官営カジノ」兜町の株式市場が崩壊し、「北浜がよみがえる日(本作品の原題)」もありうるとしている。
五代信一郎は関西の人間ではないが、大阪の商売を学びたいと北浜にある証券会社に入社した変わり者。北浜で鍛えた経験から独特の「相場観」と「判断力」に優れ、巨大証券会社の目論みを見破り、巧みに損失を回避して実績を上げる。そして北浜を再興させるために大阪証券取引所の会員を集め、共同で調査機関を設置しようとするなど、兜町に対抗するための具体的なプランニングも行う。
但し北浜の証券会社の動きは鈍い。問題意識はあるが、共同で調査機関を設置する話になると、「総論賛成・各論反対」で具体化しない。また北浜の長老たちも愚痴はこぼすが、かといって何をするわけでもなく、五代の奔走も空回りになってしまう。問題は兜町だけでなく北浜にもあると作者は述べる。
そして「支配する」大手証券会社側の動きは対照的。調査機関が「推奨」した銘柄を、証券マンはひたすら売りまくる。証券マンの管理も当時は最先端のコンピューター管理で行われ、その適正を見破る。五代に煮え湯を飲まされた大手証券会社のエリートは、京都支店に赴任して、ベンチャービジネスを細かく拾って、将来の上場を種蒔きして巻き返しをはかる。結果はどうあれ、大手と老舗、新興と守旧を対比させて、強さと弱さ、それぞれの問題点が鮮やかに描かれる。
安田二郎の小説は、銘柄の動きも含めてその内容が「近未来予見小説」と呼ばれた。本作品の主人公、「五代」は、北浜の生みの親である五代友厚から取ったという。およそ30年後、朝のテレビ小説「あさが来た」でディーン・フジオカが演じて名が広まった人物。約10年後にバブル崩壊で判明した損失補填問題なども含めて、未来を予知した作品になっている。
*デビュー作で大物振りを見せた(Amazonより)