小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

13 インターネットを創った人たち 脇 英世 (2003)

   *Amazonより

【あらすじ】

 誰がインターネットを創ったのか。国防総省の資金提供により、MITを始めとするいくつかの大学や研究機関を取り込んで生まれたARPAネット( Advanced Research Projects Agency NETwork:高等研究計画局ネットワーク)。それはハイテク産業BBNからUCLA、スタンフォード大学などに広がり、1990年代から軍事目的を超えて急速に世界全体を覆うようになる。

 インターネットが現在の形に普及するまえを描く、「人物の」インターネット史。

 

【感想】

 1989年1月8日、平成最初の日に私は「ワープロ(もはや死語か)」のOASISシリーズにモデムを接続する「ニフティ・サーブ」を開通して、他人が専門知識の蘊蓄を語っているのを読む「パソコン通信」で楽しんでいた。それがまさか10年足らずで、こんな形でネットワークが広がり、産業構造が変革するとは想像だにしなかった(想像力があり、実行力のある人は「IT社長」になった)。

 

nmukkun.hatenablog.com

 *パソコン通信の思い出について、こんな記事も投稿していました。

 

 その根幹となるインターネットの歴史を、丹念に追いかけていったのが本作品。かなり専門的な所まで掘り下げていて、読むには面白いが、解説するのは「文系おじさん」には荷が重い。そこでポイントをかいつまんで取り上げさせてもらう。

 ますはインターネットの父と呼ばれている、1974年に「TCP/IP」を考案したヴィントン・サーフ博士とロバート・カーン博士の2人。「TCP/IP」はデータをパケットと呼ばれる小さなデータに順番をつけて分割して送信。これによって途中で通信が止まった場合などでもパケットを受け取ったコンピュータが全体を再構成する、現代にも通じるデータ送信の基準を作り上げた。

  

  

*ヴィントン・サーフ博士(左)とロバート・カーン博士(ともにウィキペディアより)

 

 サーブとカーンはアーパネットの設計に関与したが、そのネットワークの負担を最小限にするためにデータ送信方法に苦慮。それを「TCP/IP」の開発によって克服した。

 次にWWWを開発した、CERN(欧州原子核研究機構:ダン・ブラウン著「天使と悪魔」にも登場する)に在籍していたコンピュータ技術者ティム・バーナーズ=リー。データを1つのコンピュータに集め、それらをリンクさせる「WWW(World Wide Web)」の仕組みを実現した。またこのWebサイトには文字をクリックすると他のWebページに遷移する「Hyper Text」という仕組みも加えられた。このWebサイトをつくるための約束事をHTLM(Hyper Text Markup Language)と呼ばれる。

 「情報スーパーハイウエイ」構想を提唱したアルバート・ゴア。貿易摩擦で日本に苦戦していた状況からの打開を図り、インターネットの普及と一般化を求め、情報インフラへと理念は広がっていく。これによりインターネットを利用した公平な競争が生まれ、アメリカに新たな産業を興し、引いては貧富の差も拡大することになる。

 当初インターネットには気乗りでなかったマイクロソフト。Windows95で乗り遅れに気づいたビル・ゲイツ占領政策という「覇道」で巻き返しをはかり、独占禁止法訴訟に対しては和解で凌ぎ、ネット社会における「覇者」の地位を築いた。

 インターネットという世界を「創った」人たち。それは本作品に書かれているとおり、多くの人の努力が積み重なって出来上がった、新たなる「天地創造」の物語。それは一神教による「造物主(The Creator)ではなく、日本における八百万(やおよろず)の神々が力を合わせてできた物語である。

   

 *クリントン大統領と語るアル・ゴア副大統領(当時:ウィキペディアより)