小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

好きな「東京国立博物館国宝展」10選

 

 昨年の文化の日は、「好きな日本の国宝10選」を掲載させて頂きました。

nmukkun.hatenablog.com

 

 そして現在、「国宝 東京国立博物館のすべて」として、国立博物館で所有する、89の国宝を展示する特別展が開催されています。私も観たい! と思いましたが、スケジュールの都合もありギブ(元々事前予約のチケットもなかなか取れない様子)。

 そこで私の「妄想の博物館(?)」を駆使して、国立博物館の国宝89の中から、10作品を選んで紹介させていただきます。前回は(ムリヤリ)ランクをつけましたが、今回は(ザックリと)年代順にしました。

 なお前回紹介させて頂いた長谷川等伯の松林図と、太刀(名物童子切安綱)は、今回割愛させていただきます。

 

1 賢愚経残巻 (大聖武) 伝聖武天皇    

 長年聖武天皇の筆と伝わったこの作品は、直筆の書風と異なるため、現在では別人の筆と断定されています(最初見た時は聖武天皇の筆と思い込み、その繊細なイメージが覆ったもの)。専門家が見ると脱字などがあり、1行あたりの字数も通常よりも少ないらしく、習作の印象も受けるそうです。

 しかし1つ1つの字が丁寧でありながらも力みなぎり、それが全体的にまとまっている様子に心引かれます。王羲之風の流麗さも含みながら、格調高さも兼ね備えているように感じます。



 

2 古今和歌集(元永本)上帖  

 真名(漢字)の書の次は、仮名の書を。平安時代末期(元永年間:12世紀) に書写されたとする、古今和歌集と写本としては最古のもの。そして書かれた紙(料紙)も、様々な紋様を雲母で刷り込ませたつくりで、当時の技術の粋を集めたと想像されます。

 その字の美しさ、料紙の模様と混ぜ合わせた見事な調和、そして模様を考えた余白と字の配置など、これ以上ないバランスで収まっていて、完成度の高い芸術として印象に残ります。



 

3 扇面法華経冊子

 前項の「古今和歌集」から更に技巧が発展したと思われる作品。料紙は雲母だけでなく、金銀の切箔などを散らした上に、彩色の下絵として描いて、その上に経文を書写したもの。同時代の平家納経ほどの華美さはないが、それでも一見して眼を奪われる美しさがあります。

 しかもこの作品は、当時は複数の職人によって、ほどほどの量を生産された様子で、平安末期と言われる当時に、このような「需要と供給」があったことは驚きです。





4 平治物語絵巻 六波羅行幸

 保元の乱(1156年)で勝利した武家の棟梁、源義朝(頼朝の父)と平清盛の勢力争いに、藤原信頼藤原通憲 (信西)による摂関家の抗争がからんだ平治の乱(1159年)を主題としています。「六波羅行幸巻」は、内裏に幽閉された二条天皇が脱出を図り、清盛の六波羅邸に逃れる場面。先に仕掛けた源義朝藤原信頼側から、戦況が平清盛側に一気に傾くきっかげとなりました。

 そんな様子を描く描写は、戦い間際の緊迫した状況が伝わってきます。「保元・平治の乱」は私が子供の頃に読んだ歴史物語でもあり、印象強いこともあって、大切な作品になっています。



 

5 瀟湘(しょうしょう)臥遊図巻

 12世紀、中国は南宋時代の水墨画。瀟湘は揚子江にある中国湖南省洞庭湖の南の景勝地で、瀟湘八景をテーマとした山水画を描くことが流行し、その最高峰とも言える作品(これが日本では金沢八景などの元となったと言われています)。

 瀟湘の自然を繊細ながらも全体に淡い筆致で描き、遠景は水蒸気が画から感じられるほどの表現力を感じ、これは長谷川等伯の傑作「松林図」に繋がっていくと感じます。

 




  

6 秋冬山水図 (雪舟

 2隻が秋と冬を描いていますが、晩秋のわびしい雰囲気を描く秋の隻に対して、冬を題材としている絵は、強烈な印象を与えます。断崖を描いているはずの線が、上のほうは天に消えていくように途切れ、下は山の稜線のように描かれていて、まるでトリックアートのような、不思議な空間を創出しています。

  これは南宋時代から発展した中国水墨画の技法の1つと聞きます。しかしこの断崖の輪郭を強調した線が、冬の慄然とした雰囲気を強調し、眼ではなく心に迫ってきます。 


*冬の隻のみです


                                                                                    

7 観梅図屏風 (狩野秀頼)

 16世紀半ば、戦国の世の終焉が見えてきた頃に描かれた作品です。                       

 紅葉を愛でながら楽しむ人々をモチーフにした、鮮やかでありながら落ち着いた画が心にしみわたります。しかし解説を見ると橋を中心にして、自然と人間、男と女、楓と松、山と川、雁と白鷺など、相対するモチーフが計算して配置されているそうです。

 狩野派の狩野秀頼の作品で、その後狩野派を大成する永徳が現れ、同じく東京国立博物館では国宝「檜図屏風」が展示ざれていますが、個人的にはこちらの屏風の方が好みです。



 

8 舟橋蒔絵硯箱 本阿弥光悦

 刀剣の研ぎを家業とした光悦は、陶芸や書、茶の湯などの「総合芸術プロデューサー」として江戸時代初期に芸術村を築いた才人。そんな人物が旧辟を打破した作品。

 不自然なほど盛り上がった蓋に、金地の蒔絵に左右の側面にかけてやや斜めに、橋をイメージした鉛板を大胆に埋め込んであります。橋を小舟がくぐっている様子が、単調な色彩にアクセントを与えます。そんな意匠は「東路の佐野の舟橋かけてのみ 思ひわたるを知る人ぞなき」という歌を忍ばせて、見事に完結しています。

 



   

 9 八橋蒔絵螺銅硯箱 (尾形光琳)                           

 本阿弥光悦の遠縁にあたり、「琳派」を完成させた尾形光琳は、師匠とも言える光悦の「舟橋蒔絵硯箱」を更に発展させました。

 光琳自身が描いた「伊勢物語」の八橋を題材とした「燕子花図屏風」は燕子花を大胆に描いたデザインですが、これを立体的に表現する発想は非常に現代的に感じます。屏風(絵画)と同じモチーフを箱、蓋、鉛などを使って作りあげ、明らかに異なる芸術品にもかかわらず、お互いの作品が高め合う効果を与えているように感じます。



 

10 楼閣山水図屏風 (池大雅

 江戸中期の画家、池大雅 の作品。先に取り上げた「瀟湘臥遊図巻」と同じ洞庭湖畔を題材にしていますが、その画法は江戸時代に流行した日本南画の流れになります。

 古くは紀元前の楚の重臣で、世を憂いて身を投じた屈原。唐の時代は張説や杜甫などが訪れた、文人ゆかりの洞庭胡は、江戸時代でも題材としてもてはやされたようす。そして池大雅らが憧れた文人墨客が集って雅会(文人たちの集まり)は、池大雅も参加したがったことでしょう。



 


 *画像はこちらから! (でもやっぱり現物が見たい・・・・)

tohaku150th.jp