小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

17 鉄の骨 池井戸 潤 (2009)

【あらすじ】

 大学の建築学科を卒業し、中堅ゼネコン・一松組入社してから4年、現場を担当してきた富島平太は突然、業務課への異動を命じられる。平太は業務課が通称「談合課」と呼ばれる部署であること、談合がなければ建設業界は立ち行かないため談合は「必要悪」であることを聞かされる。

 時を同じくして、2000億円規模に及ぶ地下鉄工事の情報が入る。地下鉄に関して豊富なノウハウを誇る一松組は、コスト的優位に立つが、社内外のしがらみから一松組そして平太も談合に関わらざるを得なくなる。そしてその情報を耳にした東京地検特捜部が水面下で捜査を進める。

 

【感想】

 旧建設省の発注工事に対し、当時建設大臣に就任していた人物に賄賂が流れたことが判明し、2000年にその元建設大臣は逮捕された。余りのイメージダウンから、時の森内閣は、建設業界に一番距離のある人をと、扇千景(本名林寛子)を建設大臣に任命し、そのまま省庁再編に伴う初代の国土交通大臣も継承した。そして同年、異例の速さで「公共工事入札契約適正化法」を作成し、成立する。ところが談合はどの後も発覚し、大手業者を中心に2005年「脱談合宣言」を行う

 それでも業界内では談合は「必要悪」として存在して現在に至る。先に取り上げた咲村観の「談合」は、1980年代の、政界と財界が癒着した「エグい」談合を描写したが、本作品は建設業界内で「脱談合宣言」をした後の「正しい談合(?)」を描いている。

nmukkun.hatenablog.com

 

 談合に対して全く白紙の状態である、入社4年目の現場担当者、富島平太を主人公とし、談合の仕組みや段取り、そして各会社での思惑などを読者に説明しながら、当時の談合の様子を描いている。そこには談合の「闇のフィクサー」が存在して、その内幕も明かされる。

 対して平太の恋人で、一松組のメインバンクに努める野村萌は、正論で平太を攻撃する。ルールがあるのに「必要悪」と、開き直っている建設業界は許せないと萌は主張する。お互いにまだまだ平社員で、会社の方針などに逆らえるはずはないし、銀行業界だってなかなかなもの(萌の勤務している銀行名が「白水銀行」となると、あの銀行しか考えられないww)。そして萌も勤務先の先輩エリートからアプローチされて心が揺れ動く。この「社会人あるある」も絡めて、平太は仕事に恋愛にと揺れ動く。

 談合で一松組に決まったはずの工事が、談合破りによって別の会社が応札する。そして次の工事は一松組が得意とする地下鉄工事で、今度は絶対に譲れない。しかし相手はグループを組んで対抗しようとする。様々なコストカットをして入札額を工夫しようとするが、なかなか効果が上がらない。そんな中、新技術を駆使して、相手には決して届かない入札額で採算が合う見積を作ることに成功する。

 そこで「闇のフィクサー」が動く。業界の1社が経営危機に見舞われ、このままでは倒産し多くの失業者が発生するという。一松建設には1年後の公共工事を担当させるので、今回は降りろ、と要求を受ける。前回談合破りを受けて受注をし損なった一松組は、再度苦汁をなめることはないと、社内の実力者の尾形常務は拒否する。話し合いを求められても、権限のない平太に行かせて約束はさせず、自分は雲隠れして妥協しない。ところが相手会社は切り札として、だまし討ちのような形で尾形常務を「闇のフィクサー」と合わせ、強引に談合に協力させる

 結末は江戸川乱歩賞を受賞したミステリー作家のテイストも見せて見事。平太は「人々に夢を与える仕事をしたい」気持ちで就職した建設業界の現場に戻る。自由競争が効かない業界だが、現代は企業が必死に生き残るために「談合」が行なわれている。

*以前NHK小池徹平が主演で放映されました(最近はWOWOW神木隆之介が演じました)。