小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

11 コスメティック 林 真理子 (1999)

【あらすじ】

 化粧品業界の裏側で繰り広げられる働く女たちの闘いを描く。入社当時にバブルを経験したキャリア女性が、バブル崩壊後にも仕事を続けていく厳しい現実に直面して、打ちひしがれる30歳の主人公・北村沙美だが、自らの人生をあきらめられない。「仕事でも恋でも百パーセント幸福になってみせる」そこから沙美の“闘い”が始まった。嫉妬、裏切り、不倫…化粧品業界を舞台に繰り広げられる“女たちの闘い”を圧倒的なリアリティを持って描く。

 

【感想】

 「業界編」になったら、どうしても大きなテーマの作品を選びすぎて、業界の説明で大半になってしまった。ここにきてようやく、等身大(?)の主人公が活躍する小説となった。

 広告代理店でAE(アカウント・エグゼクティブ:この時代から何でも横文字になりましたね)という、クライアントとクリエイターと結びつける役割をしていた北村沙美だが、バブル崩壊後は大きなクライアントをいくつも失って、ついに閑職へ流される。大手以下の広告代理店ならばこれが普通で、そろそろ会社も潮時、と思うこの頃。しかし恋人から仕事に無理しなくても、と女性としての生き方を話すも、沙美はそこには同意できず「息切れするまで働きたい」と訴える。

 ちょうどそんな時にヘッドハンティングで、外資系コスメティック企業のPRマネージャーのポストに移籍する。不景気な時にこんなに上手くいくとは、と思いつつも、そこは主人公が優秀だということで(ならばなぜ左遷される?)、化粧品業界と女性雑誌の裏側を見せつつ、仕事に恋愛にと全力投球する。

 

nmukkun.hatenablog.com

 

 高杉良が「その人事に異議あり」で、同じ1990年代を舞台にした、年齢もほぼ同じ女性下着メーカーの「広報ウーマン」を描いたが(この表現からして違う)、本作品は女性が描いた女性、という描写を感じる。異動先の前任者との会話は、共通の不倫相手でもあり、緊張感がありあり。「その人事に異議あり」でも同じようなシーンがあったが、同僚との会話も「衣の下に鎧が見える」、男性では描けない微妙で巧みな「相手を値踏みしているような」言い回しを駆使している

 そして結婚を考えている恋人の口調は、理解していると言いつつも、「妻」としての理想が見え隠れして来る。それが一々自分との「ズレ」を感じて、そのズレがどんどんと広がっていく様子がわかる。そしてその関係に「嫁」も登場してついに決壊する。この辺の恋人の台詞は、男性から見ても相手を追い詰める言葉だとわかるが、さりとて自分は気づかぬうちに同じことを言っていないか思ってしまう。ギリギリの所を上手く突いている、これぞまさに女性から見た視線。

 不倫を続けてそのまま年を取り「自分の青春を家庭持ちの男に捧げてしまった愚かな女」と形容される先輩。上司と不倫して妊娠、流産して会社を去った前任者。PR担当の仕事を「特攻隊」と言って、自分をそんな女たちの屍の1人と自嘲する同僚。様々な「女性模様」の中で、沙美は「成功を嗅ぎ分けられる」ほんのひと握りの人間の一員として仕事に打ち込む。また不倫をしていく中でも、結婚して家庭を築き、母親になることを諦めていない。そのまま33歳になった沙美は、これからも全てを諦めないで進めるのか。それどもどこかで折り合いをつけるのかはわからないまま、物語は終わっている。

 本作品は女性が描いた経済小説。女性の活躍推進が叫ばれて久しいが、それは経済小説を発表する女流作家がもっともっと増えることで証明されるに違いない。そして21世紀になって、その「兆候」は見え始めているが、まだまだこれから。ちょうど本作者は畑違いのポジションに就いたこともあり(日本大学理事長)、作者に続くような「作家もしく社員」を期待しています。

 

ja.wikipedia.org

*とは言え私は、横山秀夫の「直木賞決別宣言」以来、林真理子に対しては批判的な目で見てしまいます・・・・