小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

7 談合 広瀬 仁紀 (建設:1982)

【あらすじ】

 建設業界中位の関東建設は、高速道路建設にともなう2兆円規模の工事受注に狙いを絞る。折しも建設業界を牛耳っていた元総理の田坂渡が急死。派閥を受け継いだ久光順造は、最低200億はかかるという総裁選挙の資金を得るために、高速道路建設の中でも、一番「おいしい」部分を関東建設に受注させて、政治資金として吸い上げなければならなかった。ところが日本高速道路公団の積算した工事価格は政治資金を加味するとそれでも低く、このままでは赤字になってしまう。

 

【感想】

 作者の広瀬仁紀は、主に金融業界の内幕を描くことが多い経済小説作家だが、本作品では建設業界を舞台にした。建設業界を舞台とした小説は一般的に「談合」をテーマとした作品が大半を占め、本作品も題名通り、その例に漏れない。

 池田勇人内閣下で起きた、九頭竜川ダム建設にかかる汚職事件を描いた石川達三の「金環蝕」(1966年連載開始)で、見事な談合の仕組みを描いている。激烈な選挙で総裁三選を果たした寺田総理の懐刀の官房長官のメモから浮かび上がる談合の構造。

*こちらも俳優の「お歴々」が登場して映画化されました。

 

 政治資金を捻出するため「福龍川ダム建設工事」を必ず受注しなければならない寺田派と竹田建設は、受注元の総裁が反寺田派でもあるため追い落としにかかる。また工事受注を受けてかつ政治資金を確保するため、「ローア・リミット」という、手抜き工事をされないための確保という名目で最低価格に制限をつけて、一番高い価格で入札した竹田建設が受注することになる。「金環蝕」は、どちらかというと政治(暴露)小説の色彩が濃いので、正式には取り上げなかったが、談合を描いた先駆的作品となっている。

 対して。本作品を初めて読んだ時は、あまりにも政治色が強くて、かなりデフォルメされているなと思った。ところが前述の「金環蝕」や佐高信著「経済小説のモデルたち」を後から読んで、始めに政治ありきなのかなと思い直した。佐高信は同書の中語っているのは、建設業界と政治が結びついているのは、当時大口献金先として「表向き」繋がっているだけではない。建設業界を支配することは、業界に従事する膨大な労働者を「票」として抱えることにも通じ、また工事と積算内容に不透明な部分が多いからとしている。

 当時の「談合全盛時代」でも大手建設業界から見れば、談合はなければそれでいい、と言っていた人もいたらしい。政治資金も出せなくなるし、資金力のある大手業者しか生き残れなくなる。

 ただ本当にそうだろうか。大手が受注しても子会社や地元の系列会社などに仕事を「丸投げ」して、その上がりを吸い取るような受注も未だなくならない。低廉な価格で応札して、それで果たして耐久性に問題は生じないのか。業種が違うので申し訳ないが、事業者給付金で電通が入札した事務を丸投げしている「疑惑」を見ると、不信感は拭い去れない。本作品でも、「元総理の田坂」と共に、建設業界で談合を「支配」して、業界の秩序を保ってきた大物、山水建設の元会長平井恭之助が死去したことで、新たな「支配者」の座を巡る物語を描いている。

 1941年(!)に「談合罪」が規定されて、以降談合は犯罪行為となっている。反談合キャンペーンもあり、公正取引委員会による注意勧告、業務停止命令なども罰則もあり、発生する都度非難されているが、それでも談合は無くならない。2018年にはJR東海リニアモーターカー建設受注工事で、大手建設会社4社の談合が発覚している。

 利益の確保や地元業者への仕事の還元などの大義名分を元に、談合は続けられていく。必要悪と言ってしまえばそれまでだが、政治家だけでなく、運用する側の意識の問題がやはり大きいのではないか。21世紀になっても本作品のテーマは、残念ながら色褪せない。

 

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