小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

18 不撓不屈(ふとうふくつ) (税理士:2002)

【あらすじ】

 税理士・飯塚毅は、中小企業のためにとった税務手法を否定され、当局を相手に訴訟を起こした。だが、横暴な大蔵キャリア官僚は、それを許しはしない。飯塚の顧客へ理不尽な税務調査が行われ、さらに彼の事務所には検察の捜査まで及んだ。

 あらゆる圧力を受け、心身ともに疲れてゆく飯塚だが、彼には彼を信じる家族、師、多くの理解者がいた。事件はついに国会での論戦に持ち込まれ、国税当局を次第に追い詰めてゆく。そして、最後に勝利したのは権力に屈しない男だった。

 

【感想】

 古い話で恐縮だが、当時大蔵省の次官候補と目されたキャリア官僚が、数千万円の資金提供を受けて脱税など追求された時、国税局勤務の経験があるのも関わらず「自分は税のことは知らない」と抗弁した。同じ時期、プロ野球選手が「節税」が上手の言われる税理士に税務申告の手続きをお願いしたところ、それが「脱税」行為として、法律的にも社会的にも制裁を受けた。結局節税した金額より手数料の方が高かったというが、それだけ税とは複雑で、解釈によって税の対象が異なる。

 昭和35年に飯塚税理士の関与先が税の修正を求められる。その根拠を尋ねたところ、たらい回しの末、言い出した大蔵省キャリア官僚まで辿り着いく。根拠について論破して修正を撤回させるが、そこでキャリア官僚の恨みを買ってしまう。

 昭和36年、飯塚税理士が「節税」のために中小企業に指導していた「別段賞与」や旅費規程の解釈で税務当局と対立、関与先に税務調査が入る。その際は税理士を替え、脱税を認めると調査に手心を加えると言った(らしい)。規制と税務調査で金融業界を牛耳っていた旧大蔵省だが、個人の税理士相手にもここまでするのか、と慄然とする。

 そして検察も「相手」に加わる。昭和39年、飯塚事務所の職員4人が脱税や税理士法違反の嫌疑で逮捕される。最終的には、証拠湮滅の罪で起訴され、飯塚氏が国税当局と実質的に「和解」した後まで裁判が続けられ、結局起訴された4名は、昭和45年いずれも無罪となる。

    飯塚毅氏(TKC HPより)

 

 飯塚税理士は右顧左眄(うこさべん)しない。講演に来た税務担当者には忌憚なく質問して、相手をタジタジにさせる。調査に来た担当官と懇談もしなければ、「接待」もしない。そして疑問があると徹底的に相手にぶつけて、自分の考えを伝えて通そうとする。今の日本社会でもまだあるが、当時は特に「根回し」や「忖度」が全盛の時代。仕事以外で人間関係を構築して、あとは「あうんの呼吸」で物事が進んでいく。飲食が自制されても会合を続ける政治家や、「飲み会を断らない」官僚がいるのも、このような「日本型決定システム」が構築されているから。そのシステムから見れば異端児の飯塚税理士は、簡単に言えば「煙たい存在」だっただろう。

 そんなことも、税理士の仕事は「1円の不足も、1円の納めすぎもあるべきではない」という信念から生まれてきている。そのためには、クライアントの状況を的確に見極め、徹底的に勉強してクライアントのために何が出来るかをとことん追求する姿勢が必要になる。

 飯塚税理士は2004年死去。「8年戦争」と呼ばれた国家権力との戦いのあとは、TKCグループの発展に尽くす。これだけの人間たがら毀誉褒貶(きよほうへん)も多いが、本人はそれでも自分を曲げることはできなかったのだろう。小説としては読みづらさを感じさせるが、本作品に引用された実際の裁判記録や国会での議事録等の「公的文書」そのものが、飯塚毅の人生と「不撓不屈の精神」を表わしている気がしてならない。

 

nmukkun.hatenablog.com

*公権力と戦い続けた姿勢は、こちらの作品と通じています。