小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

10 会社蘇生 高杉良 (商社:1987)

【あらすじ】

 宝石、カメラ、ゴルフ用品などの高級ファッション、レジャー商品の輸出入で知られる老舗の総合商社、小川商会が総額1100億円もの負債を抱え、裁判所に会社更生法の適用を申請した。再建の可能性に社員までもが懐疑的だったが、そんな中で保全管理人に選ばれた弁護士の宮野英一郎とそのスタッフは、企業再生に手応えを感じ、取引先の協力獲得とスパンサー探しに奔走する。1100人にのぼる従業員とその家族を守るため、保全管理人とともに商社再建に賭けた男たちを描く。

 

【感想】

 1984年、経営陣の放漫経営により戦後第3位の記録となる1250億円の負債を抱えて会社更生法を申請して倒産した大沢商会。商社という会社の性質上、工場や施設などの会社の資産が規模に対して乏しく、また取り扱う商品も、メーカーのようなブランドとしての力は弱い。そのため商社を「更生」するのは困難と思われ、巨額な負債を抱えてまで支援するスポンサーが現れるかが一番のポイントとなる。

   

 

 その中で会社を更生する中心となるのは。裁判所から保全管理人(「管財人」と似ているが権限などで微妙に異なる)として専任された宮野弁護士。モデルは三宅省三弁護士で、会社更生法民事再生法の書物を多く著して、かつ実践も重ねている。そしてその名声と本作品の効果で、「倒産」を扱うことに憧れる弁護士が増えたと言うのだから驚きである。

 主人公の宮野弁護士は、小川商会の保全管理人に選任される前に、若手弁護士からやりがいのある仕事について聞かれ、更生会社の保全管理人を即答している。「いきなりパラシュートで舞い降りて、更生会社の全権限を掌握し、更生開始決定に導くという大きな仕事ができるんですか」と語らせている。

 その言葉通り、保全管理人は大きな権限が与えられるが、一方でスーパーマン的な役割が求められる。営業の継続のための販路の確保、労務管理、退職者のあっせんと引きとめ、債権者との協議と支援要求、会社更生計画の策定、そしてスポンサー企業を見つけて、できるだけ有利な条件で支援をしてもらうように協議しつつ、社の内外にも納得してもらえるような形にしなければならない

 その中で、外資系企業の高級ブランドの商権維持を巡る交渉は緊迫感がある。「のれん」のない商社にとって、トップブランドの商権を維持することは、会社更生の命綱と癒える。但し外資系企業から見ると、小川商会が取り扱うことで高級ブランドのイメージが損なわれ、また在庫を掃くための安売りを懸念するのも道理。そこを保全管財人という「経営者」が交渉していく様子は、「弁護士」という資格だけではできない人間性が試されていく

 平成12年に民事再生法が施行されて、破綻状態になった会社が「蘇生」する道は広がった。但し会社が蘇生するためには、企業活動が今後も存続する「意義」があるかが問われる。そのためには合理化できるもの、売却する価値があるもの、将来会社の利益をえるために必要なものを、財務内容、取引先や債権者の意向を見ながら、基本的には周囲に迷惑をかけた姿勢を見せつつも、主張して譲歩も引き出すなど、複雑な計算式を駆使しなければならない。

 それは例えば戦国時代に敗れた敵に対して、敵陣に寡兵で乗込んで城の明け渡しを求める武将に似ている。敗れた敵は、自分が今後どのような扱いを受けるのか心配する不安と悪意が渦巻く。そんな中で人身を掌握して、新たな領地として支配しなければならない。そして宮野弁護士、いや三宅省三弁護士はその困難を乗り越え、「会社蘇生」を見事成し遂げて、大沢商会は現在に至る。

 それにしても、一般読者だけでなく、専門家である弁護士にも納得させ、そして感動させる作品を作り上げる高杉良の手腕は、ほとほと恐れ入る。

   *大沢商会HPより