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【あらすじ】
情報処理大手の会社TISの子会社でゲームメーカー広報部次長の秋葉は、親会社TISの総帥でカリスマ経営者としても名をはせる大物、吉原の意向で、玩具メーカーとの合併交渉を担当する。
吉原との連絡係となった宮川恭子に惹かれつつも、相手会社の社内情報を収集する目的も含めて、女子社員に近づいていく。仕事に対しては今1つ熱意の足りなかった秋葉だが、「IT関連でグローバルスタンダードを実現する」吉原の執念に、徐々に動かされていく。
【感想】
清水一行にしては大分「軽い」主人公だな、と思って読んでいた(まるで「課長 島耕作」か、南里征典の「ロマンス」作品みたいww)が、これもIT、というよりもゲーム業界を描いたためか。秋葉は妻子がいる設定だが、「モテる中年」として若い女性を籠絡しながら情報を収集していくが、途中で目的と手段が入れ替わってしまう(笑)。
現実は、大手情報処理メーカーのCSKとその創業者大川功が主人公。大川功がコンピューターの将来性と未成熟の分野であることに着目して、1968年に創業する。産みの苦しみはあったが大川の狙い通り業界の先駆者としての役割も果たし順調に成長、バブル期は毎年1000人以上の新入社員を採用していたことを覚えている。
*大川功(日経クロステックより)
子会社のセガはゲームセンターのジュークボックス納入から始めた企業で、アメリカ企業を親会社とする。「ゲーセン」のゲーム機開発を手がけ、テレビゲームを開発するも、任天堂やソニーの後塵を拝していたが、CSKが1984年にセガの親会社を買収することで、CSKグループに組み込まれる。
本作品はその後の1997年1月に、セガとバンダイが経営統合すると発表し、同年5月に破談となった経緯をまず描いている。バンダイは同族経営でキャラクター商品は強い玩具メーカーだが、当時のコンピューター産業としてのゲーム開発は弱かった。但し社風の違いや規模による吸収の怖れ、そして同年3月に「たまごっち」のヒットから、急速に風向きが変わる。合併に急遽消極的になり、合併の解消する情報を得ようと暗躍する相手側の動きを、主人公を通して描いている。
そこからセガは「ドリームキャスト」の不振による巨額の赤字が続き、2001年には経営危機に瀕する。そこで大川が私財850億を投じて危機は回避されるが、同年3月、大川は心不全で死去する。但しセガの経営危機の話は本作品では描かれず、「IT関連でグローバルスタンダードを実現する」吉原の執念に貫かれた物語として描いている。果たしてこのことも、「IT業界」に生きる主人公の秋葉のキャラに合せて、暗い影は落とさずに描こうとしたものだろうか。
セガは本作品でも触れられているが、バンダイとの合併が破談になった後、パチスロメーカーのサミーや、ナムコ、コナミなどとの合併話が出るが、結局2003年12月、サミーとの経営統合を行ない、CSKが所有する株式を購入して筆頭株主になった。そしてセガとの「縁が無かった」ナムコは、以前セガと経営統合を発表したバンダイと経営の一部統合を行い、「バンダイナムコエンターテイメント」となる。そしてCSKは大川の死後も順調だったが、過度な不動産投資とリーマンショックによる景気変動で急激な経営危機に陥り、子会社を次々と手放すことになる。
浮き沈みが激しい、流行り廃りが目まぐるしく変わるゲーム業界、そして競合激しいソフトウェア業界の盛衰は、様々なキャラが登場してご覧のとおり。「IT」はこれからも踊り続ける。
2010年に死去した清水一行、好奇心の衰えぬ最晩年の作品。
*当時は一世を風靡したたまごっち
清水一行は200作近い作品を発表しています。その中には経済小説だけでなく、政治や社会に関わる話題もありますが、共通するものは「人間の欲望を暴いて描く」こと。大半が20世紀を舞台とした設定のため、敢えてその時代のトピックと繋がるような作品を選んで10作品に絞りましたが、今から思うとまだまだ取り上げたい作品が数多くあります。
時代を捉え、そして人間の欲望に焦点を当てるる清水一行の姿勢は、後輩の経済小説作家たちに引き継がれていきます。
次回からは、その流れを引き継ぎ、そして発展させた 高杉 良 の作品を取り上げます。