小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

10 外食王の飢え 城山 三郎 (1982)

【あらすじ】

 倉原礼一は一流を求めた。福岡でレストラン「レオーネ」を営み、一流の味を求めたが、レストランのチェーン化に奔走し、会社の規模も一流に、そして業界でも一流になることを追い求める。一方首都圏では、沢兄弟が経営するファミリーレストラン「サンセット」がチェーン展開されていた。

 福岡で実績を残した倉原は首都圏進出を目論み、外食産業の「覇者」を目指すが、首都圏には既に「サンセット」の牙城が築かれていた。「外食王」は果たして業界の覇者となり、その飢えを満たすことができるのか。

 

【感想】

 1870年に誕生したファミリーレストラン黎明期の物語。

 レストラン「レオーネ」のオーナー倉原礼一は、試食を繰り返して満足な味を追い求める。そのために3回も胃の手術を繰り返しては試食を続ける。そしてセントラルキッチン方式などにより、味に満足できる廉価で、子供連れの家族も入りやすいレストランチェーンの展開を目指す。福岡で創業し、新婚旅行で寄ったマリリン・モンロージョー・ディマジオも満足したと言われるレストラン「ロイヤル」から発展した「ロイヤルホスト」を1971年12月に開業した江頭匡一をモデルとしている。

 対してファミリーレストラン「サンセット」の創業者、沢一。東北出身の朴訥な性格。但し世の中を見る目は鋭く、今後車社会や深夜の若者の活動などを予測して、そのニーズに応えようと、深夜営業の郊外型レストランをチェーン展開する。4人の兄弟が協力して知恵を出し合い、素人にできることを追求して、画一的な料理を提供できるマニュアルを作成して、ファミリーレストラン展開を進めていく。コンビニやファストフードの発展にも似た経緯でグループを成長させる、「すかいらーく」を1970年7月に創業して初代社長となった茅野亮(本人は長野県諏訪市出身:横川家から養子に出た次男)らがモデルになっている。

*1人タキシードに蝶ネクタイ姿が江頭匡一産経新聞

 

 本作品は「レオーナ」のオーナー、倉原礼一の「生き様」に焦点をあてて描いている。その強烈な考えに裏打ちされた生き様は、未開の業界における創業者に相応しい。周囲を「なぎ倒して」前に進む、経済小説のモデルとして、ある意味典型的な描き方。

 対して兄弟で協力しながら、着々とビシネスモデルを作り上げる沢一の描き方が対象的。この動と静の対比が「外食王」を際立たせている。従来のやり方の延長線上で進む倉原に対し、革新的なモデルを作りながら、着々と進む沢。主役の性格は異なるが、これは織田信長武田信玄の天下取りの構図に等しい。そして戦国最強の武将と謳われた「信玄」倉原に危機が訪れるところで本作品は結末を迎える。

 新しいビジネスモデルと首都圏制覇により天下を取った「信長」すかいらーくは、「領地」にも恵まれて1000店舗出店を果たすが、バブルの崩壊で売上が低迷し、低価格の「ガスト」路線に変更する。しかしコストダウンによる低価格化路線はサービスの低下や料理が飽きられるなどの弊害を招き、経営は迷走する。そして21世紀になり、4兄弟で始めたすかいらーくは、創業者一族が経営責任を取るなどして、全て経営陣から退く。

 そしてロイヤルホストは、すかいらーくほどではないが全国展開を果たしし、ファミリーレストランとしては創業者以来の味にこだわった料理を提供していたが(個人的には好みだった)、近年になってコロナの影響で店舗の大量閉鎖に迫られる。

 業界が創業されて約半世紀。ファミレスは1974年に1号店が開店したコンビニと同じように、生活スタイルの変化に合わせて完全に市民権を得たが、同じように景気の変動や競合の変化、そして労働力不足の影響を受けて浮き沈みを繰り返している。そんな業界の、バブル崩壊という「本能寺の変」以前を描いた物語である

 

  

すかいらーく「創業4兄弟」の三男、横川 竟カンブリア宮殿より)

 

 城山三郎経済小説の第一世代として、明治から戦争を跨いで戦後の復興、そして日本のGNPが世界第二位となる経済大国になるまでの、日本経済界を描いた。その対象は「オールラウンダー」で、政府の政策から始まり、鉄鋼、スーパー、繊維、化学、証券、旅行、自動車、飲食と多岐に渡っている。

 強引な経営手法もありながらも、混乱の時代に会社を引っ張った経営者たち。80年代に入り日本経済がちょうど曲がり角にさしかかったとき、そしてバブル経済とその崩壊という新たな局面を描く前に、その役割を後輩たちに譲ることになる。