小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

20 十三階シリーズ 吉川 英梨 (2017~) 

 吉川英梨ならば「原麻希(ハラマキ)シリーズ」が有名で巻も重ねているが、このブログではこちらを取り上げた。女性の公安刑事と言えば、黒崎視音の「柳原明日香」を思い出すが、明日香は公安での活躍は1巻のみで、それも内部の権力闘争が主であり、こちらが本格的な「女性公安刑事」シリーズになっている。

 警視庁の「十三階」に存在する警視庁の公安秘密組織に属する精鋭部隊。国家をテロリストや異分子から守るため、時に非合法で非情な手段に出る。

 その十三階で最強と言われる女性刑事・黒江律子は新人でありながらも、「女性であることを武器にすることも辞さない」突出した仕事ぶりで上司の信頼も厚かったが、テロリスト「名もなき戦士団」から情報を得るため、ハニートラップを仕掛けたものの失敗し、北陸新幹線を爆破されてしまう。己の責任を感じた律子は「十三階」から離れる。

 第1作「十三階の女」は、律子の家族に関係する話から事件が始まる。父親は長野県の県議会議員だったが、既に亡くなっている。残された母と美人の姉、そして自由奔放な妹とは性格が合わない。夏に長野に帰省した時、姉と姉の夫が交通事故に会ってしまうが、その事故が以前失敗した事件「名もなき戦士団」の関与が疑われる。

 恋人であり上司でもあった「十三階」の有能な捜査員である古池慎一から、十三階に戻るように説得され、再びスパイ活動に入り込むことになる。女性を武器にして情報を得て、真実と嘘の狭間で揺れ動きながら、時には本当に恋愛感情があるのかも迷いながらも職務を遂行する。最後は冷徹な公安刑事としての自分と向き合うことになる。

 第2作「十三階の神(メシア)」。かつて地下鉄で大規模テロを起こし、教祖はじめ、多数の信者が死刑判決を受けた「カイラス蓮昇会」。その教祖の死刑執行が迫り、警察は対応に苦慮していた。

 そんなとき律子の母がカイラスの後継団体に入信してしまい、律子は窮地に陥った。ところが、校長と呼ばれている上司からカイラス後継団体に潜入し、その裏の教祖の正体を探れとの指令が入る。裏の教祖は、若い女性を侍らせているという噂があり、その上司は律子の妹を潜入させるよう迫る。抵抗した律子だったが、妹はあっさり引き受けまんまと潜入に成功する。潜入捜査が進むが、最後にはどんでん返しが待っている。

 第3作「十三階の血」。辺野古基地移転に反対するセクトからの脅迫状に対応するため、古池慎一は黒川律子をセクトに潜入させるよう上司に進言するが、上司は律子は「退職した」との理由で却下。その夜外交官のパーティーに参加した古池は、衆議院議員の秘書として登場する律子と出会う。律子との逢瀬を過ごす古池はパーティーに戻ると、辺野古基地反対デモに参加していた人物を発見、尋問するがその間官房長官の飲み物に砒素が盛られ倒れる。テロ側の陽動作戦に引っかかってしまった古池は、反転攻勢に出て、あらゆる手段を使ってセクトのボスを探し出し、壊滅を目指す。この作品も最後に驚きの結末が待っている。

 これで完結と思ったら、最新作「十三階の仇(ユダ)」が上梓され、自ら創作した十三階を解体させるテーマを扱い驚かせた。

 作者は「キャラクターでなく、人間を描く」と語っている。主人公の律子は時に迷いも見せながらも、使命感だけでは言い表せない、名前の通り自分を「律して」目的をコンプリートする。そして恋人を言われる古池との距離感が絶妙。時に近づき、時に離れ、片方が必要と思う時にもう片方がいない。それを律子側だけでなく、古池側からも表現している。時に「女」を意識させられながら。

 警察小説が発展してきた過程は海外ミステリーと同様、日本における女性の立場の変遷が描かれる。海外では「ミレニアム」、そして日本ではこの作品の主人公「黒江律子」に行きついた。

 

*それにしても、こんな大事件が起きた直後に、大事件を防ぐべき公安の本を紹介ことになるのは、なんというタイミング・・・・ (本当は昨日投稿予定でしたが、1日伸ばしました)