小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

9 確証(萩尾警部補シリーズ) 今野 敏 (2010~)

【あらすじ】

 窃盗犯罪担当三課の萩尾警部補は盗犯一筋の職人肌。窃盗事件は再犯率が高く、手口の蓄積が捜査には必要になるため、萩尾は三課では一目を置かれる存在になっている。そんな萩尾に所轄から配属になる若手武田秋穂がつけられる。若い女性の相棒を嫌がり邪険にする萩尾に対し、元々捜査一課を志望していた明穂も反発しながらもついていく。

 ある日強盗事件と窃盗事件が連続して起きる。担当も一課と三課で異なる二つの事件だが、萩尾はその手口から関連を指摘する。そして翌日強盗殺人事件が起きる。こちらも手口から前日の事件と同一犯と思われるが、萩尾は疑問を持つ。「死体と金庫が余計だ…」と。

 萩尾が思い描いたのはかつてプロの窃盗犯であり、現在は半身不随で引退している迫田。

 萩尾の情報源の一人でもある彼の作った装置は、現在の指紋認証のセキュリティをくぐりぬけることが可能だ。迫田は無論知らぬ存ぜぬを通したが、彼の様子や長い付き合いから、萩尾は迫田の過去が事件と関連があるのでは?と睨み、その近辺を探りだす。

 

【感想】

 警察小説の花形は強行犯の捜査一課。詐欺や経済犯罪などの知能犯を扱う二課、暴力団相手の四課、そして少年犯の生活課などもたまに対象になるが、窃盗犯の三課が主役になるのは珍しい。そこを、主人公を経験豊富な職人気質にして、窃盗の常習犯とのつながりから事件の捜査を進めるストーリーを構築した。そして三課に初配属となった女性刑事を絡ませ、窃盗事件を捜査するポイントを相棒に教えていくと同時に、読者にも理解しやすいように描いている。

 また強盗殺人事件のため強行犯の一課と三課が合同捜査を行うことになるが、「警察あるある」の刑事と公安の綱引きと異なり、本作品では一課と三課で対立することになる。一課の強引な捜査手法に反発する萩尾。警察小説の大半は一課が主役のため、この視点は新しい。そしてその対立から、元々一課志望であった武田明穂が、本腰を入れて三課の職務に打ち込むようになる。

 

 第2作「真贋」は、事件の手口から常習の窃盗犯を連想させたが、取り調べに対してその容疑者は弟子をかばっている様子が見える。国宝展で展示される「曜変天目」の真贋を追う過程で、今後は経済事犯を追っていた二課とも対立することに。その中で窃盗犯とその弟子の関係、そして明穂も本作品では自分の意見を出して萩尾も認めていく過程も描かれ、事件を背景に師匠と弟子の物語も語られる。

 第3作「黙示」。今回の事件は、高級住宅街に住むIT長者である館脇の家から盗まれた「ソロモンの指輪」を巡る事件。指輪の盗難に暗殺教団、山の老人が関わっており、館脇が命を狙われていると指摘。古代文明に精通した、「今野シリーズ」の探偵・石神も館脇の警護につく中、萩尾と明穂のコンビが真相を探る。

 

 物語の舞台を三課に設定したため、事件はやや地味だが、今までにない視点から描く警察小説となっている。そして現在、セキュリティ技術は発達しても、犯罪の性質上刑事と犯人や情報源とのの関係を構築するには長い期間が費やされ、昭和の頃の繋がりを感じさせる。そして萩尾警部補の捜査手法も、昔気質の足と頭を利用したものを連想させる。本シリーズは「三課」という特殊性を通して、古き良き時代の警察小説を回顧している作品になっている

 

nmukkun.hatenablog.com

*贋作をテーマにすると、どうしてもこの作品が思い浮かべます。