小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

【コラム】 ウクライナの動画と湾岸戦争と塩野七生

1 日本は感謝されない?

  ウクライナ外務省は4月26日、公式ツイッターに投稿した動画で、支援国に対して感謝を伝えた。その柏手国は米国、カナダ、英国、オーストラリア、ドイツ、フランス、ポーランド、トルコ、エジブトなど31ヵ国が紹介されたが、ウクライナに対して3億ドル(約370億円)の支援を行った日本は含まれていなかった。このことについて、様々なところから非難の声が上がっている。

 

www.nikkei.com

  資金の支援を行なった日本が感謝の相手から漏れたことについて、過去に同じような出来事があったことを思い出した人が多かっただろう。1991年の湾岸戦争時、日本円で1兆円を超える巨額の資金援助を行いながら、クウェートからの感謝広告に日本が掲載されていなかったとして、日本国内では非難が上がり、世界から冷笑されてしまう。

 

2 いつか見た風景

 この出来事をNHK出身のジヤーナリスト、手嶋龍一は「1991年日本の敗北」(改題「外交敗戦:130億ドルは砂に消えた」)に著わした。手嶋龍一はテレビ「シューイチ」などに出潰して、テレビ局出身者として人当たりの良いコメントをしているが、「インテリジェンス」に対する見方は一流で、デビュ一作「ウルトラダラー」では「本職の」元外務省佐藤優を捻らせるほどで、その後「専門家はだし」として佐藤優との共著を数々と出版している。

 同作品では、海外派兵ができない日本が、海外の戦争に対する支援をアメリカから強く求められ、海部俊樹内閣下での幹事長、小沢一郎の強引な政治主導、日本で行われる諸外国のスパイ活動、情報収集に対しての「スクリーニング」の甘さ、そしてアメリカに対する外務省と(当時)大蔵省の二重外交などの問題点を赤裸々に暴いた。

 そして今回は日本の抗議 (?) を受けて、ウクライナは日本も含めた感謝の動画を再度掲載した。

 

3 なぜ同じことが繰り返されるのか

 ではなぜ同じことが繰り返されるのか。今回のウクライナの動画は、日本だけでなく韓国を含めたアジア国家が除外されている。生死の境目にある戦場で、未だ戦争が終わらない中での動画でもあり、ヨーロッパの近隣国とアジアの国々に対する温度差もあるだろう。但しそれだけではない。

 「ローマ人の物語」などで有名な作家、塩野七生の連載エッセイ「日本人へ リーダ一篇」の中で、国際社会における「強国」の定義について、塩野氏なりに述べている基準が興味深い。強国とは、以下の5つの「剣」の内、いくつ保有しているかがカギとしている。

 ① 国連安保理で拒否権を持っていること

 ② 国連で常任理事国であること

 ③ 海外派兵も可能な車事力を有していること

 ④ 核保有国であること

 ⑤ 他国にも援助が可能な経済力を有していること

 

 このうち超大国と呼ばれるには、5つの剣全てを保有していなくてはならず、他国と対等に伍していくには、最低でも3~4本は必要だと訴えている。

  では、翻って見て、日本は剣を何本保有しているのか

 

 

4 今回のことをまとめると

 「陰徳は密かに行なう。もしも寄付を受けた時に、寄付した人から「寄付をしたから感謝しろ」と言われたら、あなたはどう思うか

 苦しい時に一緒に汗を流してくれた人に感謝をするのは当然である。そして今後も苦しい立場になった時に、頼れると思うのは一緒に汗を流した人か、それとも汗を流さずお金を支援するだけの人かは、自明の論理である。これは国税から供出したお金だから、と日本国民が言っても、戦場となって命の危険を晒されているウクライナの人たちに、日本は国税を使ってまで支援してくれたんだ、と抗議するのは無理筋である。

 結局日本は(良い、悪いは別にして)「強国」ではない道を選んでしまっている。そんな国がお金を寄付するのに、感謝の見返りを求めるのは元々おかしな話で、世界から冷笑されるのは当然である。

 話を戻すが、ウクライナ外務省が製作した動画に日本が登場しなかったのは、普通の感覚の話であり、支援をした日本としては、本来は「陰徳」としてスルーすべき内容であり、それを非難することは筋違い。

 

 まして防衛費増加に反対し自衛隊の存在に異議を言っている人たちは、今回の件でウクライナを非難することはできない。現在の社会情勢では、戦争放棄と戦争支援で賞賛を受ける「2兎」は追えない。

 そして戦争そのものがなくなり、このような議論が繰り返されないことを願う。