【あらすじ】
警視庁キャリアの百合根友久警部は上司の三枝参事官から呼び出され、「科学特捜班」通称「ST」の監督役を拝命する。それぞれが一芸に秀でた優秀な捜査官ながら性格的に難を抱え、通常の組織ではやっていけない「はみ出し者」揃いの中で四苦八苦するが、徐々に事件の捜査におけるSTの優秀性が発揮されるにつれて、信頼感とチームに対する愛着が生まれて来る。
今回の事件は大学病院で搬送された男が急死する。医療ミス訴えたものの民事裁判で敗れた遺族が刑事告訴したためにSTにお鉢が回ってきたもの。その大学病院は、STリーダーで法医学担当赤城が研修医をしていた職場。捜査の過程で赤城は事件とともに自身の過去とも向き合うことになる。
【感想】
これまで紹介した、安定した主人公を中心とする刑事もののシリーズとは違い、本シリーズはだいぶキャラの立った人物を揃え、各人の特色を最大限に引き出している。登場人物の紹介を兼ねた初期3部作から始まるが、そのうち3作目の「黒いモスクワ」は作者が空手家としてロシアで指導した経験を基に描かれたもので、思い入れも強い様子。続いて各人の「一芸」にスポットをあてた「色シリーズ」、そして「伝説シリーズ」とスピンオフ作品などが続いている。
赤城左門は法医学担当。対人恐怖症を抱えているため医者を諦め法医学の道に進む。本人は一匹狼を気取っているが、人を引き付ける才能から、周囲からは「リーダー」として、真逆の評価をされている。
青山翔の専門は筆跡鑑定、ポリグラフ、プロファイリングなど。美貌の持ち主だが本人は全く無関心。秩序恐怖症で整頓された場所を嫌う。口癖は「もう帰ってもいい?」
黒崎勇治は第一化学担当。発達した嗅覚を持ち、毒物などの臭いのほかに人間の大衆なども敏感に嗅ぎ取る。極端に無口な性格で趣味は武道の鍛錬。様々な武道に精通しており、その実力も折り紙付き。
山吹才蔵は第二化学担当。本物の僧侶でもある。そのため事件現場に駆け付ける際は被害者へお経を唱えることもある。性格はまともで、はみ出し者揃いのメンバーの中で百合根をサポートする。
結城翠は物理学担当。超人的に発達した聴覚を持っており、人間の心音まで聞き取り、黒崎と共に「人間噓発見器」として活躍する。閉所恐怖症のため常に開放的な露出度の高い服で、周囲を困惑させる。
菊川吾郎はSTと捜査一課との連絡を担当する刑事。事件の度に行動を共にする。叩き上げの刑事で当初はSTに対しては否定的だったが、徐々に歩み寄り、彼らの側に立場を変えていく。
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*テレビと映画で赤城の藤原竜也も驚きましたが、「美貌の男子」青山を志田未来が演じたのはビックリでした。
本作品は2003年に刊行され、赤城左門が主人公となっている。当時騒がれた医療ミスをテーマに、「象牙の塔」の内部にある独特のヒエラルヒーや権力闘争が、優秀な医者でありながらも大学病院から離れざるを得なかった赤城の過去と絡み合う。赤城の過去を追うことで内面の葛藤を生み出し、人物の造形を深彫りする。そんな中でも、かつての同僚である看護師の女性たちが、「赤城ちゃん」と呼びながら味方になっているのは、「対人恐怖症」で「女性恐怖症」でもある赤城自身の思いとのギャップが激しく微笑ましい。
結末は悲しい。「象牙の塔」の中での「常識」とそれに対する世間の「非常識」。その狭間で押しつぶされる人間を、そこから逃げ出したものが裁く。ありがちなテーマなのかもしれないが、赤城の人物設定を最大限に活かしきった作品となっている。
個性派揃いの「色シリーズ」は、どれも各人の特徴と専門知識を活かした高い水準の作品が並ぶが、本作品はその中でも一番の完成度をほこっている。
初期シリーズ
1 ST 警視庁科学特捜班 (1998)
2 ST 警視庁科学特捜班 毒物殺人 (1999)
3 ST 警視庁科学特捜班 黒いモスクワ (2000)
色シリーズ
4 ST 警視庁科学特捜班 青の調査ファイル (2003)
5 ST 警視庁科学特捜班 赤の調査ファイル (2003)
6 ST 警視庁科学特捜班 黄の調査ファイル (2004)
7 ST 警視庁科学特捜班 緑の調査ファイル (2005)
8 ST 警視庁科学特捜班 黒の調査ファイル (2005)
伝説シリーズ
9 ST 警視庁科学特捜班 為朝伝説殺人ファイル (2006)
10 ST 警視庁科学特捜班 桃太郎伝説殺人ファイル (2007)
11 ST 警視庁科学特捜班 沖ノ島伝説殺人ファイル (2010)