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【あらすじ】
急死した父親から、死後5日目に送られてきた1通のメール。創薬化学を専攻する大学院生の古賀研人は、その不可解な遺書を手掛かりに、父が独自に研究を進めていた、その存在が隠されていた私設実験室に辿り着く。ウィスル学者だった父は、そこで何を研究しようとしていたのか。その直後、研人に身の危険が迫る。
同じ頃特殊部隊出身の傭兵、ジョナサン・イエーガーは、難病に冒された息子の治療費を稼ぐため、ある極秘の依頼を引き受ける。暗殺任務と思しき詳細不明の作戦。事前に明かされたには「人類全体に奉仕する仕事」ということだけだった。イエーガーは、暗殺チームの一員となり、戦争状態にあるアフリカ・コンゴのジャングル地帯に潜入する。
【感想】
ミステリーの範疇を超えた壮大なスケールの物語。その内容はボブ・ウッドワードとフレデリック・フォーサイスとアーサー・C・クラークを足して3で「割らない」質と量。これだけ広大なスケールの物語が日本で、そして乱歩賞受賞作「13階段」を書いた高野和明が生み出したことに驚いた(当初、作家は別人と思った)。
新たな人類の出現を予言する「ハイズマン・レポート」。それは同時に旧人類を脅かす脅威の出現を意味していた。その人類を抹殺するために送り込まれたイエーガー。彼らに与えられた任務はコンゴ民主共和国に密かに潜入し、危険な病にとりつかれたピグミー族を「駆除」し、また「これまで見たこともない生物」に遭遇した場合も「抹殺」することだった。その任務がアメリカ大統領・バーンズの命令で発動された「ネメシス作戦」だとは、イエーガーは知るよしもない。作戦名(ここでは「神の鉄槌」の意味に近いか)といい、任務の実行を担うのが傭兵部隊といい、皮肉が効いている。
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*自らが仕組んだ(?) 革命闘争での傭兵部隊の活躍を描くフォーサイスの傑作。
対して日本編は、三鷹駅での父の急死、実家厚木での葬式、町田のアパートにある私設実験室と、スケールが急に縮んだような(失礼!)リアルな場所で展開する。亡き父が残した新薬製造のプログラムは都合良く感じるが、そこに「ハイズマン・レポート」の存在が関わっていた。
研人は真相についてはわからないが、その痕跡を消したいアメリカ政府とその関係者(=日本政府)から狙われる。命の危険にひるむ研人だが、父の思いと、新薬の有効性を苦しんでいる人を救えると知ったため、危険を顧みず新薬製造に精力を注ぐことになる。ここで研人に協力する韓国人留学生の李正勲は、強い印象を残している。
そして徐々に2つの物語が交錯する。「新たな人類:アキリ」の描き方は秀逸。感性が異なるも、危険で怪しい「排除すべき」存在ではなく、何か手助けしたくなるように描いている。イエーガーも当初の命令に背いて、アキリを助ける気持ちに変化する様子には心が打たれる。そして大西洋上空で戦闘機に襲撃された時にアキリが考え出した危機回避法は、「新たな人類」を特徴づける意味でも見事な描写。
*「新たな人類」を連想する、SFの巨匠による傑作。
本作品はこのような「新たな人類」を巡る話と共に、父子の物語でもある。まずは主人公の研人と父誠治。うだつのあがらない研究を続ける父に反発して、最先端の新薬研究の没頭していた研人だが、父の死後に父の本当の想いを知ることになる。
続いて傭兵のイエーガー。子供が難病で高額の医療費を稼ぐために、危険だが報酬が高い傭兵を続ける辛さ。そしてその心が段々と変化していく様子が描かれる。
また新人類のアキリとその父も、2人の別れの場面で描かれている。アフリカから「ある目的」で日本に向かうアキリ。それを心配そうに見送る父。父は「旧人類」で本来は特異な能力を持つ子供に対して怖れを感じてもいいはずだが、別れの場面では子を心配する親の立場で描かれている。
最後はアメリカ大統領。本作品の発刊当時は、アメリカで初めての親子二代の大統領が務めていた時代でもあり、その複雑な心理も描いている。
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*江戸川乱歩賞受賞のデビュー作は、法曹界の問題も絡めた名作です。