小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

15 殺人鬼フジコの衝動 真梨 幸子 (2008)

【あらすじ】

 森沢藤子は母からの虐待や学校でのいじめに会い、苦痛な生活を送っていた。小学校5年生の時、藤子以外の一家全員が殺害されてしまい、藤子は新興宗教の幹部である叔母、下田茂子の家に身を寄せることになった。

 叔母の家では今までとは違い大切に育てられ、藤子は人生はやり直しができるものだと信じるようになる。そして邪魔だった同級生の小坂絵美を殺しても、バレずに過ごせた彼女は、自分の考えは正しいと確信し、その妄想はどんどんと肥大化する。

 そして自分の人生で思い通りにいかない「邪魔者」は排除するようになっていく。

 

【感想】

 シリアルキラーを描くのは難しいと心底思う。それは生まれついて心の中にある性格に由来するものであり、後天的なものとは異なる印象があるから。そして後天的なものと捉えると、自分を含め多くの人がシリアルキラーになる可能性があるという「恐怖」に囚われてしまう。

 女性を描くのも同じように(?)難しい。自分よりも可愛い女性や素敵な彼氏がいる女性には妬みや嫉妬と、そして自分が上と思えば逆に素敵な彼氏を紹介したりと、陰に日向に「マウンティング」を繰り返し、自分の抱えるプライドや妬みと折り合いながら、人間関係の中で次第に自分の立ち位置が決まっていく(そういう女性もいる、とここでは述べる)。クリスティーのいくつかの作品や、嶋田荘司の「幽体離脱殺人事件」などは、その点を容赦なく描いている。

 

nmukkun.hatenablog.com

*まだマウンティングという言葉がなかった時代の「女の友情」を描いた作品。

 

*そしてドラマは尾野真千子が「好演」し「怪演」した作品でした。

 

 藤子はそれができない。プライドに折り合いをつける術を知らない。そして湧き出る妬みは、過去の「成功体験」から抑えが効かず、コンプレックスを刺激されると即、直裁的な行動に走る。その「衝動」を我慢することができずに成長してしまった。

 小学校でちょっとしたきっかけから同級生を殺してしまい、変質者の犯行と思われたため自分は捜査の圏外となってから、目の前にある邪魔者を消去するようになる。高校時代の恋敵、そして奪ったはずなのに浮気をする夫、夫に構ってもらえない原因と思い込む娘、そして貧困に悩み給食費を賄うために襲った近所の人、そこから帰宅した所で待っていた夫・・・・

 1人目の娘は育児放棄で殺してしまう。2人目の娘は昔の自分を見ているようで、感情が抑えられずに虐待してしまう。それはあれだけ嫌った母親が自分に行なった仕打ちの繰り返し。そして藤子はこう回顧する。「ねぇ叔母さん、私どこで間違えた?どこまで戻ればいいの?」と。転落した原因は自分ではなく、周囲に、そして男運の悪さにしてしまうが、結局は藤子が周囲を不幸にして、自分も一緒に転落していく姿を赤裸々に描いている。

 本作品は藤子が殺人の現行犯で逮捕、死刑執行される。残され、そして成長した娘についてその後描かれる。虐待された長女早季子は、「殺人鬼フジコの衝動」を書き上げて、作家である妹の美也子に送って自殺する。美也子は改めて母親藤子の真実を知ろうと、叔母下田茂子と、小学校の時殺害された同級生の母親で、茂子と同じ宗教団体の仲間である小坂初代に取材に行く。そして描かれる簡潔な「あとがき」は、簡潔なだけに強烈。本作品の最後にふさわしい衝撃を受ける

 本作品の続編「インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実」もまた強烈。本作品が読み手の心を「虚」にするのに対し、続編では読み手の心を常に苛立たせ、あの黒板を爪で引っ掻くような不協和音を奏でる「イヤミス」界の頂点とも言える作品。

 そして藤子の「血筋」も考えてしまう。結局シリアルキラーは持って生まれたものなのか、と。

 

*続篇は、黒板を爪で引っ掻くような不協和音が全編に漂います