小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

8 ブルータスの心臓  (1989)

【あらすじ】

 産業機器メーカーで人工知能ロボットの開発を手掛ける末永哲也。苦学しながら勉学に務め現在の会社に就職する。将来を嘱望されているが、末永自身も会社内での出世、そして権力を欲していた。

 末永は出世のために、役員室配属の雨宮康子に取り入って情報を得ていた。ところが次期社長の末娘・星子の婿養子候補となり出世の階段が見えた時に康子の妊娠を知る。そんな時、星子の腹違いの兄・直樹から、同僚の橋本とともに呼び出される。3人とも康子の子供の父親候補で共通していて、子供を育てる強い意志を持つ康子を殺害する計画を打ち明けられる。3人で役割分担を決め、完璧なアリバイを持った、大阪から東京を結ぶ殺人リレーが行われるが、末永が受け取った死体は、当初康子を殺害する役割を担っていたはずの直樹だった。

 

【感想】

 東野圭吾のメーカー勤務経験を活かした作品。とは言っても主人公が出世のために邪魔になる女性を消すストーリーは王道中の王道。そこに同じ思いを持つ仲間と共同しての「リレー」は、本来は最後の種明かしに持っていきたいトリックだが、仲間内での内輪もめでなく、明らかに第3者が介在した形での計画の破綻とヒネりが加えられている。そして「犯人側」が事件の真相を探っていく展開はかなり練られたもの。

 殺害を担当する人間が殺されたわけなので、「第1容疑者」は当初の被害者側と思うが、そう簡単にいかないところがミソ。そして同僚の橋本も殺害され末永自身も命を狙われる。対して末永は自分の身を守り、そして自分の「立場」を守りたいがために殺人を犯して「不連続殺人事件」に発展し、泥沼化する。読み進めても、果たしてどう着地するのかわからない。

 序章で描かれた、ロボット化された工場での死亡事故に込められた意味。終章で全てが判明するが、私はなぜロボットに「ブルータス」と名付けたのか疑問に思った。最終的にはロボット開発の研究者である主人公に対して見事「ブルータス」の役割を果たすのだが、ロボットに名付けた時にそんな意図があるはずはない。作品の流れから作者が思いついただけ、と言われたらそれまでだが、そこに「寓意」を感じる。

*米ソのコンピューター「コロッサム」と「カーディアン」がネットワークで結ばれ、人類を支配するSF映画の金字塔「地球爆破作戦」。製作が1970年だが、21世紀のコンピューター世界とネットワーク社会を見通したかのような先駆的なストーリーで、その後のSF作品に大きな影響を与えた金字塔的な作品。私も子供心に衝撃を受けました。

 

 1980年代、日本の電機メーカーは我が世の春を謳歌していた。そしてあまりにも巨大化していった半導体産業。ロボットによって労働現場から人間が「駆逐」されるアイロニー。その恐れを映像化したコンピューターが人間を支配する映画や、コンピューターの進歩により人類が破滅する、世紀末の世界観に溢れた映画がつくられていた時代。人間にとってコンピューターは「ブルータス」になる脅威を感じていた存在だった。

 世紀をまたいだ現在、IT産業の発展などでコンピューター脅威論は影を潜めて、その存在を素直に肯定し、人間とコンピューターが「棲み分け」をして進歩する道を選んでいる。そしてコンピューターは将棋で名人級に勝利を収めるほど発達し、80年代にあれほど隆盛を誇っていた電機メーカーは、かつてのアメリカに対する日本のように新興国の突き上げを受けて、厳しい状況に置かれている。

 そんな中でいつも強いのは、権力を持った人間。事件の原因を作った雨宮康子も無残な最期を遂げるが、その「原因」を作った人物は関係者が右往左往しているのを、安全な観客席で見守っているのが印象的。本筋とはだいぶ離れてしまったが、本作品を再読して、そんなことを考えさせられた。

*こちらも映像化されています。(主演:藤原竜也