小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

20 盲剣楼奇譚 (吉敷竹史:2019)

【あらすじ】

 江戸時代から続く金沢の芸者置屋、盲剣楼で、終戦直後の昭和20年9月に大量斬殺事件が発生した。軍人くずれの無頼の徒が楼を占拠。出入り口も窓も封鎖された密室の中で乱暴狼藉の限りを尽くす5人の男たちを、一瞬にして斬り殺した謎の美剣士。

 一味の生き残りの男が現代になって「盲剣楼」を営んでいた女性の子孫を誘拐し、仲間を斬った人物を連れてくるよう要求する。その女性は吉敷竹史の妻、通子が営む店の大家で、通子から吉敷に支援の要請が入る。

 

【感想】

 何と20年ぶりに吉敷竹史が長編で復活!である。

 「吉敷さんは警部になって、仕事も大変だねえ。通子さんとはまだ一緒に暮らさないの? そろそろ落ち着かなきゃダメだよ。え! こちらがあのユキちゃん? 大きくなったねえ。東大に受かったの! いや~頑張ったねえ、おめでとう。お父さんと一緒に暮らせるようになったのは良かったけど、お母さんは寂しがるだろうねえ」と、「口うるさい親戚のおじさん」のような気持ちになるのはなぜ?

 本作品は現在の誘拐事件から始まり、その原因となる70年以上前の終戦後間もなくの怪事件を描写する。その活躍振りは金沢に伝わり芸者置屋に祠にあった「伝説の剣客」盲剣さまの伝承とそっくりであり、物語は伝承の「盲剣さま」に移る。

 関ヶ原の余韻も冷めやらぬ江戸初期、山縣鮎之進は剣の道を極めるため修行の旅をしていた流浪の美剣士。その実力は折り紙付きだが、時代は動乱期が過ぎて、必要な人材は武士から官僚に移り変わっていた。鮎之進は「遅れてきた青年」だった。ちなみに金沢は官僚の象徴でもある「武士の家計簿」の舞台でもあり、主人公が勤めていた御算用場跡は通子の店、そして伝承の舞台となる東茶屋街からほど近い、金沢城に隣接したところにある。

f:id:nmukkun:20211106150134j:plain

 

 鮎之進は、やくざ者に占拠されつつある村に行き合い、その無双の剣の冴えを買われ、村人から助力を請われる。その後心ならずも命を狙われる男の用心棒となるが、ところがその村が悪党一味に襲撃され皆殺しの目に遭い、一夜を共にした女性は囚われの身に。そこで鮎之進は単身助けに行くが、「種子島」銃で負傷し、拷問され盲目になる。但しそこで女性の助けを得て窮地を脱する。

 流れだけ書くと、「七人の侍」や「用心棒」、そして藤沢周平物の時代映画などを連想させるが、この内容が(いつもながら)長い作品の大半を占めた、島田荘司の剣豪時代小説となっている。「作中作」は凝りに凝った作品を描いてきたが、こちらも完成度は高い。

 そして伝承の「盲剣さま」と70年前の大量惨殺事件を重ねるのだが、今回も現実にあるものを結びつけている。そしてその謎が70年後、吉敷警部の尽力もあり解明する。そのトリック(?)は正直ちょっとどうかな、と思うけど、親子四代の家系に献身した男の思いを込めて語られると、やはりホロリとさせられて納得してしまう、島田荘司マジック。

 ネット上では、旅行先での吉敷警部による拳銃発砲に心配(?)する向きもあるが、地元警察の協力のもとで発生した緊急事態と、「種子島」にやられた盲剣さまの無念に報いるため、吉敷に警察人生で初めて発砲させたと思いたい。それよりも、戦後の盲剣楼における乱暴狼藉をした犯人の設定が疑問。かなり刺激的な表現を使っていて、「奇想、天を動かす」や「透明人間の納屋」を書いた同じ作者とは思えないのだが・・・・

 

nmukkun.hatenablog.com