小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

【コラム】太田光と新庄剛志(選ぶ側の論理)

1 太田光の場合

 太田光が選挙特番のMCを務めて、その発言が「炎上」しています。その時点の開票速報では劣勢で、結果的に小選挙区で敗北した自民党甘利明議員に対して「もし負けたら戦犯ですよね」と言い、「ご愁傷さまでした」と言ってのけました。また前幹事長でもある二階俊博議員にも「いつまで政治家続けるつもりですか?」と質問して怒らせました。これに対し視聴者からは、「態度が失礼」「自分が喋りすぎ」と批判の声が多くあがり、炎上しました。

 妻で事務所社長の光代さんはツイッターで「ご愁傷さま」について、「この言葉。決して悪い言葉ではありません。ご愁傷様は、おきのどくさまです。漢字でもご理解いただけるように」とフォローしましたが、それが更に炎上を招きます。太田光本人は「自分は聞きたいことを聞いているだけで、相手を怒らせようとはしていない」としながらも、自ら「暴走」と言い、「テクニックが足りない」と反省しています。

   f:id:nmukkun:20211107142057j:plain *TBS番組公式ホームページより

 

2 新庄剛志の場合

 そして先週、まさかと思った新庄剛志が正式に日本ハムの監督に就任しました。自由奔放な選手生活を送ったと見られますが、ある時は選手に我慢を強いる立場で、うまく統率できるのでしょうか。阪神時代は「野球に対するセンスがないから辞めたい」と現役引退を宣言し、わずか2日で撤回した過去もあります。その時は首脳陣に対する不満もあったようですが、果たして数多い選手たちの不満を、「新庄劇場」で対処することができるのでしょうか

 新庄剛志が監督に就任すると、(私にとっては)意外にも「新庄は野球に真摯な姿勢を持っている」、「新庄のような人が日本のプロ野球界を変えてくれる」という好意的な意見が散見されます。コロナで集客力が落ちる中、日本ハム球団は2年後に本拠地移転を控え「起爆剤」が欲しい状況。また前任の栗山監督もコーチ経験がないまま監督に就任し、長期政権となりました。解説者の経験から、選手に伝える力は備わって、それがチームの牽引力になったとも思われます。それは新庄監督に期待されると思います。

 

3 それぞれの事情

 太田光の場合は、選挙開票という「情報番組」のMCで、お笑い番組ではないということが前提です。事務所社長の光代さんは「太田光は芸人」と言って庇いましたが、情報番組のMCを芸人として「演じる」ことしかできないとしたら、その役目を受けるべきではないでしょう。まして「いじる」相手は、公職を務める政治家でありますが、いわば「シロウト」です。相手を怒らせるつもりはないと言っても、太田光の発言が相手に対して失礼にあたり、しかも視聴者もそう感じるのならば、その発言は「テレビ人」として許されることではありません。それではいじめの加害者が、被害者の気持ちがわからないと言っていることと同じです

 以前「太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中。」という番組を担当して、政治・経済にも鋭い意見を持っていることに感心した経験はあります。しかしこれはあくまでバラエティ番組です。一定の人格に対しての誹謗中傷は、少なくても「シロウト」相手にはなかったと記憶しています。

 一方プロ野球の監督ですが、メジャーリーグでは勉強を重ねて、100以上あるマイナーリーグの中から実績を積んで、徐々にステップアップするシステムが確立されています。そのためメジャーリーグではスター選手は余り監督を目指さず、名監督は現役の実績は意外とパッとしない選手が多いようです。そのため日本のように、スター選手がコーチ経験もなくいきなり監督になるケースはほとんどありません。

 例えばヨーロッパのプロサッカーリーグでは、リーグにチームが20前後あるため、最初から優勝を目指さないチームもあります。選手を育成して高く売って、チーム運営を目的としています。ダルビッシュ有大谷翔平をメジャーに移籍させた日本ハム球団の運営も、その点も感じることがあります。そこから見ると、新庄監督が「優勝は目指さない(9月の時点で考える)」というのも、言葉は刺激的ですが、球団経営の方針の1つであり、また勝負所まではムリしない「落合采配」に通じるものもあります。

   f:id:nmukkun:20211107142211j:plain (写真:共同通信

 

4 それぞれの目的

 選挙番組の目的は、他局に対して視聴率を取ることです。池上彰テレビ東京で「忌憚のない」意見を言って数字を取っているのは事実ですが、質問の内容は「政治番組」から大きく逸脱したものではありません。私が池上彰の質問で秀逸と思ったのは、当選確実となった谷亮子(柔ちゃん)に対して、「どの委員会に所属したいと思っていますか」です。これほど端的に「タレント候補」に対して政治家としての資質を問う質問はないと思います。

 太田光を選挙開票番組のMCに選んだのはTBSです。太田光が情報番組でも「同じ姿勢」をとり続けることは、相方の田中だけでなく、全ての人が想像できたと思います。そのため今回の「炎上」は、少なくてもテレビ局の製作スタッフは「そうなる可能性はある」ことを認識して進めたとしか思えません。そうでなければ、テレビ局として、明らかに想像力が欠如しています。

 TBSの選挙開票番組の視聴率は、各テレビ局で一番低かった結果が出ました。今回「大物」というだけで存在してきた政治家が敗北している姿と同様に、有権者も視聴者もよく見ているなと思います。その結果は製作スタッフに起因するもので、太田光が1人で背負うものではありません。

 

 従来の日本プロ野球界の「常識」は、球団経営を安定させるためには、優勝争いをして集客力を上げ、チームのブランドを高めることになります。対して北海道で唯一のブランドである日本ハム球団では、優勝しなくても球団経営が安定することを優先することも、アリかもしれません(選手の年俸を抑えられることにもなります)。その視点から見ると、日本ハム球団においては「新庄監督」が存在しうる唯一の球団でしょう。

 但し昔からのプロ野球ファンがどう思うかは、ペナントレースが始まって、実際に試合を観ての話になるでしょう。ペナントレースの展開によっては、「だから言わんこっちゃない」と思えることも起こると思います。それらを含めてエンターテイメントとしての球団経営で「新庄監督」を決断したのでしょう。そこは選挙特番と大きく異なります。

 では新庄監督で日本ハムが優勝したら・・・・ それは日本の社会構造と精神構造を根本から変革する「事件」になるかもしれません