小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

5 北の夕鶴2/3の殺人 (吉敷竹史:1985)

【あらすじ】

 吉敷刑事に5年ぶりに別れた妻、加納通子からかかってきた電話は、ただならぬ気配に満ちていた。警視庁捜査一課の刑事、吉敷竹史は通子を追って上野駅へ行くも、一歩届かず通子を乗せて発車した「ゆうづる9号」を見送る。翌日、青森署から捜査協力依頼が来るが、その事件「ゆうづる9号」で死んだ女の服装は、昨夜見た通子のものとまったく同じもの。吉敷は急遽青森へ急ぐ。しかし死体は通子とは別人だった。

 吉敷は更に通子の現在の住所である釧路に足を延ばすが、通子の部屋は殺人事件の現場となって通子は行方不明となっていた。殺されたのは2人の女性、その夫は兄弟で、保険金目的の動機はあるものの、同じ団地の別の部屋で他の人と麻雀をしていてアリバイがある。旧知の牛越刑事の情報により、通子は容疑者として捜査の対象になっているとの話を聞きつけ、通子の救出と事件の真相解明に吉敷が乗り出す。

 

【感想】

 作者島田荘司によると、本作品のトリックは御手洗潔シリーズ用に準備されていたそうだが、吉敷シリーズの編集者から「大トリック」を何度もせがまれて本作品になった経緯があったと後書きで述べている。このトリックを読んで私は大笑いしてしまったが、回り回って同じ編集者から「夕鶴」のような大トリックをせがまれて、綾辻行人が「殺人方程式」を生み出したという話も更に笑える。まさに因果は巡る「水車」(綾辻行人氏用)である(^^) (ちょっとマニアネタでしょうか)

 前作は八岐大蛇伝説をテイストに加えたが、本作品は源義経の逃避行伝説を背景に加えている。島田荘司高木彬光に私淑し、また探偵役の神津恭介への愛着もあったためか(「龍臥亭事件」では上下巻でそれぞれに献辞を添えている)、名作「成吉思汗の秘密」へのオマージュを感じる。鎧兜の幽霊と「夜泣き石」伝説をトリックと絡ませて、トラベルミステリーの要素を本作品でも組み入れつつ、本格派ミステリーの軸足はきちんと残している。

 

 この作品で吉敷の元妻である加納通子が初めて登場するのも重要である。初読の印象は「なんとも面倒くさい女」だった。思わせぶりで自分の気持ちを素直に言えず、心の中で1人だけで悲観的な決着をつける昭和の女性。ただでさえ男は女心をわからないので(これは私がよく言われているww)、これでは吉敷も振り回されっぱなしになり、同じ立場の私は(笑)大いに同情する。

 最後のシーンも、通子はもっと素直に感謝し思いをぶつけ、そして吉敷はそんな恰好つけずに、もっと通子に対して気持ちをぶつけるべきと不満が残った。しかし、l今後少しずつ通子の内面のトラウマが描かれるようになり、少しは理解できるようになる

 事件は警視庁とは管轄外の釧路で繰り広げられる。「私事休暇」中にハードボイルドに犯人とやり合いボコボコにされて(労災はきかないだろうなあww)、立っているのもやっとの状態で通子を助け出し、また通子の逮捕状執行の期限があるので、意識朦朧の中で頭を目まぐるしく回転させて謎を解いて真相を暴く。この泥臭さを島田荘司らしくなく感じるのは、御手洗潔のイメージが強いためか。

 そして最後に披露された強烈な大ネタ。「斜め屋敷」や「水晶のピラミッド」を連想させる建物が主役となるトリックはインパクト絶大。感想は「大笑い」で止めておきますが、初読の印象は、なぜ釧路の平原にポツンとこんな建物が3棟も建てられたのか、でした。

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