小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

4 出雲伝説7/8の殺人 (吉敷竹史:1984)

【あらすじ】

 山陰地方の若桜駅、山守駅、大篠津駅、倉吉駅、大社駅、鳥取駅、そして山陰ではないが大阪駅の7つの駅に到着する電車の網棚に、女性のばらばら死体の各部位がつめられた袋が置かれていた。頭部を除く、七つの部位が発見されることになる。

 ちょうど休暇で鳥取に訪れていた吉敷竹史は、警察学校校時代の友人吉田から事件の話を聞く。東京に戻った吉敷に、匿名の手紙が待っていた。それによれば、被害者は、K学院大学の歴史民族学研究室の助手、青木恭子であった。そして被害者と出雲伝説―特に八岐大蛇(やまたのおろち)伝説をめぐる激しい論争を繰り返した同研究室助手の野村操が有力な容疑者と思われた。

 被害者の青木は事件の日、「出雲1号」に乗っていたと思われる。しかし、野村は、その15分前に発車する「富士」に乗っていた。完全なアリバイが成立することが、逆に怪しいと吉敷刑事は考える。

 

【感想】

 アリバイトリックは関心が薄い私だが、人間の部位を八岐大蛇になぞらえて電車に分けて運ばせる趣向には「ハマった」。子供の頃強烈な印象を受けた諸星大二郎の名作「暗黒神話」で解かれる、ヤマトタケルの遠征ルートをオリオン座の重ね合わせた図柄を思い出した。1か所からちらばり、また1か所に集まる。鉄道網は様々な想像を掻き立てる。

 そして八岐大蛇を「バラバラの島荘(当時作者が付けられた異名です)」が、電車トリックと結び付ける発想は、常人では到底考えつかない。また考えついても、小説にはならない(笑) 神話が絡むとどうしても伝奇物になり、不可能犯罪を神や心霊、超能力など常識を超越した事象にかこつけて、読者は置いてきぼりになるケースが多い。対して本作品では、作者はキッチリと現代の日本社会で(一応)説明し納得できる収め方をしている(ネタバレに近いが、寝台電車のコンパーメントの中で、短時間で人間をバラバラにするのは流石にムリがあると思うが・・・)。

 アリバイトリック、死体をバラバラにして各部位を山陰地方の各地に「広げた」理由なども徐々に明らかになり、読み手に浸透してくる。本作品は初めから犯人が絞られているので、ネタバレにはならないと思うので書くが、バラバラにした「理由」は、犯人の「情念」と言った方がいいだろう。島田荘司の描く犯人は女性が多く、そして最後に犯行を自ら語らせる形が多いが、その多くは「情念」と言えるもので、確かに捜査陣が「動機」を問いただすよりも告白の形が似合う。

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 そして犯人の告白内容は別の意味で興味深い。地道に八岐大蛇伝説の研究を続け発表する地味な犯人。それに対して美人で聡明な、そして学者たちを「あらゆる手を使って」味方にして、容疑者に対して執拗に批判する被害者。ある時は研究内容を「ファンタジー」と断じて、口論の糸口にもならない「非難」を浴びせかける。

 これはまさに島田荘司と当時の「文壇」の関係に他ならない。全集の後書きに作者が書いているが、当時は「理由なき理由で」批評され、また乱歩賞の看板もないため創作活動にかなり苦労した様子。そのため認められるように、胃痙攣になるまで自分を追い込んで作品を発表し続けた。そんな作者の「情念」が犯人の告白に込められている。

 

 本作品で私が「ハマった」、鉄道網を使った趣向。時を経て1995年「地下鉄サリン事件」が起きた際、いやが応でも本作品を思い出した(被害者の方はご容赦下さい)。

 鉄道網を利用した犯罪は、小説の中だけにして欲しい。