小説を 勝手にくくって 20選!

ジャンルで分けた20選の感想をつづります。

       書評を中心に、時たま日常を語り社会問題に意見します。ネタばれは極力気をつけます。        

2 斜め屋敷の犯罪 (御手洗潔:1982)

【あらすじ】

 宗谷岬のはずれのオホーツク海を見下ろす高台に建てられた「流氷館」は、ハマー・ディーゼル会長の浜本幸三郎がオーナーで、3階建ての西洋館と円筒形の塔がわざと傾けられており、それゆえ土地の人からは「斜め屋敷」と呼ばれていた。

 この館で開かれたクリスマス・パーティーの翌朝、運転手の上田が鍵のかけられた部屋の中で、心臓の上から登山ナイフを深々と突き立てられて殺されていた。

 さらに刑事たちが館に泊まり込んだその翌朝、別の招待客が3つの鍵がかけられた部屋の中で殺害されていた。この「不可能犯罪」を解決すべく、東京から占い師の御手洗潔とその助手の石岡和己が応援としてやってくる。しかしさらに事件が起きる。

 

【感想】

 「占星術殺人事件」で一部から認められ第2作の発行となる。後から思えば「このようなミステリー」が第1作、第2作と連続して上梓されたことが、日本のミステリー界に対して強烈なインパクトを与え、大きな意味を持つことになるのだが、当時は「論評以前」の問題作。但し社会派ミステリーに塗りつぶされていた当時にも、このような作品を待ち望んでいた層は確かに存在していた。ちなみに「犬神家の一族」の映画で横溝正史ブームが起こったのが1976年。

 前作で「アゾート」という魅惑的な謎を提示してバラバラ殺人の猟奇的な事件を描いたが、今回は「斜め屋敷」という謎を提示して密室殺人を描いた。「館もの」というミステリーの分野もあるにはあるが、本作品は屋敷が主人公。斜め屋敷「における」犯罪ではなく、斜め屋敷「が犯す」犯罪である。この本を読んだ時は江戸川乱歩の「三角館の秘密」を思い出し、三好眞一郎が書いた、武田騎馬軍を「城が喰いつくす」異色の歴史小説「翳(かげ)りの城」(2013)を読んだ時は本作品を思い出した。

 

 事件は3つ起きるがその内最後の「未遂」は解決への道標で、第1、第2の殺人が主。そして第1の殺人は従来の密室物でありがちな密室トリックだが、第2のトリックが、島田荘司ならではの大技が炸裂する、本作品の「キモ」と言える。殺人の動機などは後からわかり、特に第1の殺人の必然性に疑問を持つ読み手は多いだろう(=批判した人は当時多かっただろう)。そして犯人役もおのずと絞られていく。

 第2の殺人は一世一代の大魔術となるのだが、このトリックを私は読んでいて何となく想像がつき、そして想像通りのトリックなら、ちょっと不自然だな、と思いながら読み進んでいた。このことは後で。

 先に述べた通り、「占星術殺人事件」に続く第2作として本作品を発表したことが大きな意味を持った。このあと創作活動は一旦現実的な「刑事」吉敷竹史シリーズに移るが、この2作の「強烈な光」がその後の新本格派作家群を生み出す契機となったのは間違いない。そして島田荘司も一定期間を置いて、御手洗潔シリーズを「再生」させていく。

 ところで、本作品で疑問に思った理由は以下です。本作品の「歴史的価値」を損ねるものではありませんが。ネタバレになるので未読の方は読んだ上で、大急ぎでお戻りください。

 

 

↓ ここから(スマホで見る方を考慮して、敢えて反転にはしていないので注意!

 

 

 

 

 いくら建物全体を暖めるといっても、真冬にはマイナス40度にもなる土地で、建物にいくつもの「穴」があるのは不自然。しかも建物外の浜本オーナーが居住する塔から穴は続いている。これでは寒さは凌げない。そのため穴を利用した仕掛けを考えてしまう。

 天狗のお面は「本陣殺人事件」で出てくる琴柱の意味合いなのだろう。