【あらすじ】
二・二六事件の日、画家の梅沢平吉が、自宅の密室状態のアトリエで殺された。そして現場には奇怪な遺書が残されていた。それは若い6人の処女から、それぞれの星座に合わせて体の一部分を切り取り、それらを合成して完璧な肉体を持つ女性「アゾート」を作成するというものだった。
その後、6人の姉妹が全員殺され、それぞれ頭、肩、胸、腰、大腿部、下足部が切り取られた状態で発見された…。アゾートはどこか? そして犯人は誰なのか? 幾多の謎は解かれることなく、占星術殺人と名づけられたこの事件は、やがて迷宮入りとなった。
それから約40年後の1979年。飯田美沙子という女性が、御手洗潔の占星学教室にやってくる。亡くなった元警察官の父親・竹越文次郎の遺品を整理していたところ、自分こそが占星術殺人で切り取られた体を各地に運んだ人間なのだということを告白した手記を見つけたという。石岡和己からこの事件のあらましを聞いた御手洗は珍しく興味を示す。
【感想】
島田荘司の衝撃的なデビュー作。但しこれは後から見ての話で、江戸川乱歩賞は最終選考で落選。選評も表に出たものでさえ結構な言われようであり、裏ではかなり激しい批判もあっただろう。当時の「文壇」の流れからは大分離れた作品であり、自身も「論評以前」の扱いだったと語っている。但し紆余曲折の上出版されると、大学のミステリ研究会では絶賛され、日本ミステリー界の潮流が変わるきっかけともなった。
事件は大きく3つに分かれる。第1は梅沢平吉殺し。二・二六事件の日という、歴史的にも有名な雪の夜を利用した密室殺人。後の事件を誤った方向に誘導するための伏線もこの時すでに用意している。
第2は平吉の後妻の連れ子、一枝殺し。別の家に住む娘を先に殺害するとともに、次の殺害の共犯者を用意する罠でもある。
そして第3が「アゾート」殺し。6人の女性が毒で同時に殺害され、その死体を切り分けて接合し、完璧な1体の女性(アゾート)を作る。そして切り分けた残りを全国各地に埋め分けるという奇想天外な話。殺害された梅沢平吉の手記に記されており、その遺志を継いだのは誰か、40年間謎は解かれないまま現在に至る。
全ての謎が第3の「アゾート」殺しと密接に関連があり、アゾートを説明する最初に登場する平吉の手記も、占星術の専門用語を多用して完成度が高いために読み手を惑わす。そのため真相が幻惑される。ワトスン役の石岡が独自に事件を追うも途方に終わる中で、御手洗は思わせ振りにしながらも、唐突に真相が暴かれる。この思いもかけない場面での真犯人の登場は、まるで映画「ジョーズ」の出現シーンの様に効果的なタイミングで、その衝撃は前代未聞。空前絶後。
まさに「パズル」の名にふさわしい。これだけ大風呂敷を広げて、それをどう畳んでいくのか興味津々だったが、予想を遥かに超える着地となる。そして「パズル」は「新本格派」として一つの潮流となる。
文藝春秋のミステリーベスト100で3位。そのコメント欄には「国内ミステリー界のロイヤルストレートフラッシュ」と評された。言い得て妙だが、私は個人的に本作品を、作者の趣味と前衛的な内容、そして国内ミステリー界における役割を合わせて、作者がファンであるビートルズが世界のポップス界を変えた故事に習い、国内ミステリー界の「サージェント・ペパーズ」と勝手に定義づけている。
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